B 244 Renseignement(諜報)の授業

    授業が進んでいくと、伍長訓練コースでもあったRenseignement(諜報)という授業がある。下士官訓練コースではより内容が高度になる。と言えば聞こえはいいが、いわゆる敵味方の装備している車両や航空機の識別を指す。僕は陸上自衛隊にいた時に少し経験があったのでこの授業は結構好きであった。だが他の下士官候補生はそうでもなく、識別に苦労していた。特に同じ様な車両は全部同じに見えるらしく、色々と違いを指摘してやってなんとか理解できる様であった。この違いの指摘には色々とあり、キャタピラーの転輪の数はおろかその間隔の違いなども入ってくる。機関銃の位置であったり、排気口の位置であったり
    一般部隊の軍曹如きの情報がどうなるかというと、その車両なり航空機の情報が小隊長から中隊長、連隊本部、はたまた師団本部まで行く事もあるのだ。敵陣営の作戦を読み取る上でもこの情報は役に立つ。それに味方陣営がどこまで進んでいるかなどだ。前線の前線にいる兵士たちのリーダーである下士官からの情報なのだ。僕は個人的にロシア軍の車両やヘリコプターは知っていたのでそんなに苦労はしなかったし、米軍の車両や航空機についても同様であった。この時は知らなかったけれど、何気に装甲兵員輸送車を日本にいた時はAPC(Armoured Personnel Carrier)と簡単に呼んでいたけれど、ここはフランス軍である。VTT(Véhicule de Transport de Troupe)と呼ばなくてはならなかったし、歩兵戦闘車両などはVCI(Vehicle de Combat d’Infanterie)と呼ばなくては誰もわからないということを痛感した。
    教官であるメロー軍曹に「識別はオイカワが詳しいからわからない事はオイカワに聞け!」と言わせたのは、僕がビトウさんから借りていた月刊誌の「Gun」を持っていて、それには当時最新のエアショーの記事が載っていてロシア軍の航空機がたくさん載っていたのもある。例えば「SU -27」とか「KA -28」とか、陸軍の兵器は忘れたが、結構な役に立った事は確かである。当時の東側だけではなく西側の車両や航空機についても同様であった。小銃や拳銃にも少し詳しかった。これは小学校時代にモデルガンや戦記物の雑誌、戦争映画が好きだった頃の賜物であった。そのほかの装備も同様。とにかく敵/味方の識別は重要であった。教官だけあってメロー軍曹はなかなかの知識はあったが、その授業中、合いの手を入れて僕が詳しく説明するものだから、メロー軍曹もお手上げであった。今のようにグーグルも何も無い時代、メロー軍曹の使っているスライド用の写真は古いものが多かったし、僕はそれなりに最近の写真を持っていたという事もある。
    このおかげで下士官訓練コースで僕に何かを言うやつは減った。僕はアジア人であるし連隊も工兵連隊である。歩兵連隊や落下傘連隊の連中は自分らに敵う奴などいないと思っているところにフランス語もイマイチな僕が出てきたのだ!驚いたやつも結構いて、ぼくは愉快であった。

                      読んでくれたひとありがとう