B096 「3カ月の執行猶予」

1989年8月20日(日)

 

6時に独房から出されて営倉に入れられている連中とコーヒーを飲んでその日は始まった。8時ごろまで色々と掃除をさせられた。そして、連隊総務の上級曹長の所に呼ばれて説教された。「お前ぐらいの新兵の頃は酔っ払って喧嘩などはしなかったぞ!」などと色々と言われた。僕は黙って聞いていた。そして中隊に帰ってよしと言われた。無罪放免されたのだった。明日は月曜日。色々と事情を聞かれるのだろう。せっかく「CTE04」で褒めて貰ったばかりなのにこれじゃ元も子もない・・・。

 

1989年8月21日(月)

 

連隊朝礼のあと早速ルジュン中尉に呼ばれた。「理由を問わず喧嘩をしてはいけない」静かな声で言われた。言われた事はそれだけで、その一言で終わりだった。小隊事務室を出ると中隊長に呼び止められた。中隊長の事務室に初めて入った。何があったか説明しろと言われたので、昨日の顛末を片言ながら説明した。中隊長は「奴は馬鹿者だ。お前はまともだ。そのお前が馬鹿者相手に手を出したのは失敗だ。そういう失敗はするな。」と言われた。当分の間おとなしくしていよう・・・。

ところが小隊のみんなは「お前、よくやったな!」などと言ってくる。なんでかなぁ・・・?と不思議に思いながら一日過ごして夜になった。今夜は酒保には近づかないでおこう。そう思っている所に普段酒をほとんど飲む事がないカノ・シルバがビールを2本持って部屋にやって来た。僕に1本渡すとキャップを捻って開け「乾杯しようぜ!」と言った。言われた通りキャップを捻って開け乾杯した。どういう事だ???カノ・シルバの話を聞くと、このイギリス人、名前は「ブッシー」というやつで、以前この第3中隊にいたそうだ。酒グセは悪いし態度も横柄でカノ・シルバは大嫌いだったそうで、そんな連中が中隊には結構いたらしく中隊の鼻つまみ者だったらしい。そいつの事を新入り部隊兵の日本人がやっつけたというのでカノは愉快になってビールで乾杯しようぜ!という事になったのだ。毎日平和過ぎて彼にとっての久々の痛快な出来事だったらしい。

 

1989年8月22日(火)前編

 

今朝は背嚢やFA -MASのフル装備で8キロの駆け足だった。2キロも行かないうちに足が上がらなくなって来て僕のスピードが落ちた。ヘルメットも被っているので暑さで段々ぼ〜っとして来て頭痛もして来た。ハンセン伍長の奴はここぞとばかり走りながらFA -MASで僕のヘルメットを何度も殴りやがった。奴に嫌われて目をつけられているので最悪だ・・・。終わった時はフラフラだった・・・。

午前、午後とも地雷の仕掛け方の訓練だった。16時にビトウさんと2人で制服で中隊長の所に出頭するように命令が来た。中隊長の所に制服で出頭すると言う事は大体が罰則だ。最低でも数日間の営倉か数日間の中隊雑用なので、腹を括って中隊長室に入った。前回同様のことを言われ、5日間の営倉、ただし3カ月の猶予と宣告された。僕の個人ファイルが目の前に置いてある。それを一瞥した中隊長は「もうこう言う馬鹿な事はするなよ!」と穏やかに言った。

僕とビトウさんは、処罰が書かれた紙にサインして中隊長室を出た廊下でズィグレール曹長に出食わした!立ち止まった曹長は僕ら2人をジロっと睨んだけれど特に何も言わなかった。冷や汗が出た瞬間であった・・・。

 

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後編に続く