B142 ワインにむせる

1990年2月7日(水)

初日にスキーをした所まで駆け足をした。行きはほぼ登り、帰りは下りで大体15キロメートルぐらい走った。でもまぁまぁの調子だったから遅れる事もなくいい気分で走り終えた。

昼食前から夕方は行軍があったけれどいつもよりゆっくりだった。それに景色はいいし空気もいい。ちょっとしたハイキング感覚だった。17時前には終わったのでみんなと部屋でゆっくりしていた。明日はどこかで野営という事だ。冬山での夜営はまだ未経験だった。ここでは朝晩気温が氷点下なので気を付けなければならない。

 

1990年2月8日(木)

朝行軍に出発だと聞かされていたけれど午前中はスキーだった。16時ごろ行軍に出発した。背嚢とFA -MASも一緒だ。なぜか昨日歩いたコースと同じ道だった。各自交代で中尉の傍に行って地図を渡され今どこを歩いているかとか現在位置はどこかなど質問された。

暗くなるだいぶ前に休止した。ここが今夜の宿営地らしい。いつも通り僕らは焚火用の木を探すために蜘蛛の子の様に四方へ散った。カノ・シルバが日番伍長で、「これだけあればいいだろう!」と言ったので、薪拾いは終わった。

火を起こし夕食の準備だ。出発前に僕とマナンはブタレブ上級伍長に呼ばれて食堂へ連れて行かれた。背嚢も持ってこいという。僕とマナンは???だったが言われた通りに背嚢を持ってブタレブ上級伍長について行った。背嚢は4つ必要だという事だった。食堂へ着くと、ブタレブ上級伍長は知り合いなのだろうその倉庫番に倉庫を開けさせて僕らの背嚢の中にハムやチーズ、バター、コーヒー、砂糖などありとあらゆる物をボンボン放り込み始めたのだ!背嚢の一つなどは入るだけのバゲットを詰め込んだりした。20本は入れたと思う。それだけだと思っていたけれど、実は僕達は第2陣だったのだ!第1陣の連中の背嚢には5リッター入りの赤ワインやビール、その他にも果物、鍋などを入れて行軍して来た奴らがいたのだ。その量を見て笑うしかなかったのでそうした。

中尉は目をみはって驚いている。鍋を火にかけ赤ワインが注がれた。ワインが温まるまでビールが配られて焚き火の周りで飲んだ。焚き火の火のついている木でタバコに火を点けるなどという映画でしか見た事がない様な格好いい事をやったのはこの時が初めてだった。

ワインが温まってきたので、オレンジジュースの粉末を入れた。リンゴは幾つかに切りドボン!角砂糖をいくつか入れて味が馴染むまで少し待つ。本来は果物は新鮮な本物を使うのだけれどオレンジがなかったので粉末ジュースという訳だった。このVin chaud(ヴァン・ショウ=ホット・ワイン)はこの時初めてでかなり美味しかったし体が温まったのを覚えている。下士官になって小隊次席下士官の時には僕が率先して作る様になるのではあるが・・・。

 

焚き火の周りに集まって、バゲットを千切りハムやソーセージのぶつ切りをみんなに配ってサンドイッチ風にして食べた。玉ねぎもあったので少し切り刻んで挟んだ。ホット・ワインにむせる。ドレゼがくだらない冗談を絶え間なく飛ばすのでみんなで大笑いしながらの食事だった。

 

ここを宿営地に決めたのは、扉はないけれど一応小屋があったからだった。雪が多い地方という事で、入り口の所の高さが1メートル以上あった。今回のスキーには中尉以下10名ぐらいと少なかったのでそのこやに全員入って寝る事が出来そうだった。夕食前には各自場所を決めていたのでその順番でガードが決められた。朝まで焚き火の火を絶やさない様にするためというのも仕事だった。僕の番になって寒い中起きた。急いで焚き火の所まで行く。空は晴れていて空気が澄んでいるせいもあって星が綺麗に見えた。周りは切り立った山で、映画「荒鷲の要塞」を思い出した・・・。

 

 

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