1990年6月12日(火)
中尉も3人の軍曹もいない。デュキノア上級伍長と僕を含めた3人の部隊兵だけの留守番だった。朝はみんなゆっくりしていて起きたのが6時5分前だった。普段は5時半なのに。7時からいつものように窓枠のペンキ塗りだ。古いペンキを剥がして新しいのを塗るのだ。僕一人、マイペースで出来るのでなかなかこの仕事は気に入っていた。昼食後は昼寝の時間にずっと手紙を書いていた。16時近くになったので作業着に着替えていたら、デュキノア上級伍長が通りかかった。僕の事をジーっと見ている。そして徐に言った。「午後は仕事はせん!」なんという事だ!思いもしない事だったので声を出して笑ってしまった。いつも仕事の時は厳しいあまり笑わないデュキノア上級伍長だったけれど、なんだか親しみを覚えた。
夜は、昔心無い奴に失くされた日記を、記憶を元に新しいノートに書く作業をした。志願した時の事は驚くほどよく覚えていて、初日だけでもノート1ページ半になった。そんな事をしているうちに頭が「円」を描き出した。どうやら今夜はビールをちょっと飲み過ぎたようだ・・・。
1990年6月13日(水)
作業しやすい服に着替えて「さぁ!今日もペンキ塗り作業だ!」と思っていたらいきなりデュキノア上級伍長に「急いでちゃんとした服に着替えろ!」と言われた。何事かと聞くと、第1外人騎兵連隊の第3中隊長で、僕らの混成中隊の中隊長でもあるロロー大尉が9時過ぎに僕らの小隊の食堂へ来るという事だった。今し方連絡が来たらしかった。
フランスでは、朝食はクロワッサンとか、切ったパンにバターやジャムを塗ったもの、それにコーヒーなどが一般的だけれど、部隊ではそのあとに駆け足とか運動をするので昼まで持たない。そのため、運動後には「Casse-croute(カス・クルート)」と呼ばれる軽食をとる。簡単なサンドイッチとかだ。パテだとかツナ缶とかのサンドイッチが多かった。良い時はバターを塗ってそれにハムを挟んだやつもあった。
デュキノア上級伍長と食堂まで行って色々入ったダンボールを取って来た。その後急いでテーブルに皿やフォーク、ナイフ、グラスなどを出して並べた。大袈裟だなぁ・・・と思っていたらデュキノア上級伍長がダンボールを開けて中の物を出し始めた。ソーセージやハム、卵、ワインもあった。ロロー大尉が来る直前にテーブルには、パン、卵料理、ハム、バター、ソーセージや、マスタードなど色々な物が並んだ。もちろんワインもだ!軽食どころの話ではない。ロロー大尉は体格がよく鼻の下に髭を生やしていて、でも気さくな人だった。僕らはロロー大尉の前なので遠慮をしていたけれど「どうして食べないんだ???そんなのは部隊兵じゃないぞ!」と大声で言うと笑い出した。ならばと言う事でやっと僕らも色々と食べ出したのだった。こんな早い時間にワインを飲むのは初めてだ。デュキノア上級伍長がどこからか手に入れた良いワインが出て来て朝の9時過ぎから何度も乾杯した。話も盛り上がってすごく愉快な時間だった。
数年後軍曹の時(1995年)に仏領ポリネシアにあった第5外人連隊に配属になった時にロロー大尉(少佐に進級していた)と再会した事があった。当時の中央アフリカの事をよく覚えていてくれて嬉しかった。フラダン中尉(のちに大佐)ともいまだに連絡を取り合っているそうだ。
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