軍曹訓練コースも終盤になってきて、BDU(ベルトランドウ=中隊が所有している訓練場のある農場)での戦闘指揮の訓練が何日も続いた。小隊は3つの分隊に分けられて各自それぞれ交代で分隊長役をやる。僕は第1分隊長と第2分隊長はやったけれど、第3分隊長役はやっていなかった。小隊長役は、勿論ドカルモ先任であったので誰が何をやっているかわかっていた。回数の多かった第2分隊長を僕は結構やって指揮の仕方を覚えたつもりになっていた。気分転換で第1分隊長役もやったけれど、第3分隊長は記憶にない・・・。試験の週間になってトラックに荷物を積みBDUに向かった。緊張の瞬間である。軍曹になれるかどうかの分かれ目なのだ。武器についてだとか、色々なテストがあった。試験官は別の小隊なり別の中隊の下士官であった。なので馴染みの下士官は殆どいない。いよいよ戦闘指揮のテストになった。3人の下士官候補生の仲間と3人組を作り、小隊ということにしてBDUの裏山の戦闘訓練地域へ向かった。ドカルモ先任の前へ並ぶ。3人で誰がどの分隊長をやるか予め話をして決めてあったが、ドカルモ先任の前に並ぶと先任が「誰々は第1分隊長、オイカワは第2分隊長、誰々は第3分隊長」と、有無を言わせぬように決められてしまった。試験官は、僕が伍長訓練で世話になったレイ曹長であった。それも第2分隊専属であった。それぞれに分隊員としてどれぐらいの勤務か分からないけれど、10名ぐらい、一人の伍長と新兵があてがわれた。彼らを実際に指揮するのだ。これは大変なことになったぞ!でも、先任は僕を第2分隊長役にしてくれた。やり慣れていると言えばやり慣れている第2分隊長役だけれど、僕は緊張した。まず分隊員に銃に装填させた。そして自分の周りに片膝をつかせて待たせて、そしてドカルモ先任の元へ行って命令を聞くためにペンとノートを出した。双眼鏡は首から下げていたが、邪魔にならないように、上着の内側に入れた。そのほか、PP11という携帯無線機も首から下げていた。
命令は訓練通りのものであった。そしてそれを分隊員へ伝えるために元いた場所へ戻って分隊員へ伝えた。分隊員はもう既に何回かこの役をやっているのでどこに動くか知っているようであった。僕の前に下士官候補生が数人、既に分隊長役をやっていたからだった。ノートを見ながら各自の警戒方向や、不測の事態の対処法、接敵した時の動きなど細かく説明する。特にレイ曹長が見ているだろうと気合が入ったが、レイ曹長はあらぬ方を見て退屈そうであった。無線機で「第2分隊準備よし!」とドカルモ先任へ送るとすかさず「小隊!進め!」と返答があったので、僕は「第2分隊、進め!」と命令を出して進み始めた。
そろそろ敵の装甲車に出くわす辺りに来た。その時、右側の小道の先に敵装甲車がいるという設定であったので、それをドカルモ先任に無線で報告すると、「ロケットがいるだろ!」と無線で怒鳴られた。そうだった。分隊には89ミリ対戦車砲を持った兵士がいたんだった!他の兵士を周囲の警戒にあたらせ、僕はロケット砲手を呼んで敵装甲車がいるであろう辺りに砲身を向けさせて射撃の指揮をとって発射した。数メートル先に投げた訓練用手榴弾のドカンという音が発射の印であったので僕は訓練用手榴弾を投げた。「敵装甲車破壊。車両を降りた人数なし!」と無線でドカルモ先任へ送る。先任から「第2分隊、そのまま進め!」と返事がきた。僕は分隊員に進むように言った。次は第1分隊が接敵しているところに出くわす筈だ。そのまま進んでいくと、かなりの銃声が聞こえ出した。第1分隊が敵に向かって射撃をしていた。僕も分隊員を止まらせて各自位置につけた。射撃方向の説明を急いでする。最後には第1分隊は道を渡って突撃する筈なので、その時に備えて射撃範囲を移動させたければいけない。それをしないと味方を射撃してしまうからだ。僕は、1人目の第1分隊の兵士が道路脇に見えたので「2ème Groupe,Report de tir! 」(第2分隊、射撃範囲の移動!)と号令を出した。皆射撃範囲を移動した。一通り射撃音が収まると、道路上に第1分隊が出てきて進み始めたので第2分隊も続いた。その時「Finex,Finex!」(終了終了!)と無線から聞こえた。なんとか戦闘指揮のテストが終わったのだ!分隊の兵士たちに銃から弾を抜くように言って、装具の点検をさせる。僕は各銃の安全を点検して装具も点検してよしとなったところで一緒にいた伍長に兵士たちを渡した。
こうして下士官訓練コースの一大イベントでもある「戦闘指揮訓練」のテストが終わった。
呼んでくれた人、ありがとう