B136 志願者を横目にワインを飲む

1989年12月30日(土)

朝7時ごろパリのリヨン駅に着いた。駅内のカフェでシャルトンとビトウさんと3人でコーヒーを飲んで少し落ち着いてからシャルトンと別れた。僕とビトウさんは一路ノジョン要塞へと向かう。僕が外人部隊に志願した場所だ。休暇で泊まりに来たと週番伍長に申告して部屋を教えてもらい荷物を持って向かった。荷物を置いて少し眠った。昼前に起きて髭を剃りさぁ、外出だ!

ニームの第2外人歩兵連隊(2REI)のタニグチくんとオペラ座の前で12時、15時、18時と3時間おきのどれかの待ち合わせで会えるだろうという約束事をしていた。12時には間に合わなかったので3時にオペラ座の前に行くと以前会ったホシナがいた。近くの店にタニグチくんとジブチ帰りのナカオさんという人が一緒にいるという事でそこへ向かう。飲むにはまだ早いという事になって銃砲店の地下にある射撃場で拳銃の射撃をした。普段撃てない銃や色々な口径の弾を手にして地下へ降りる。一般の人でも馴染みが有ると思う「44マグナム」も撃った。初めてのリボルバーでいきなりこの口径を撃ったので手が暫く痛かった。

夜は「ハナ」という日本人経営のカラオケバーで飲んだ。

 

1989年12月31日(日)

一日中ゴロゴロ。昼はここのジョン要塞の食堂で食べる。食べている最中遠くのテーブルを見ると髪がまだ長くて着古した戦闘服や私服の連中が見えた。外人部隊に志願に来た連中だった。その瞬間、今年の2月にここに来て志願した時の事が思い出された。今はあの時ほど寒くは感じない。僕は志願兵ではなくもうちゃんとした外人部隊兵だ。食堂でビールもワインも飲める。足りなかったらパンのおかわりも出来た。暖房のよく効いた部屋でシーツもあるベッドで寝たいだけ寝られる。シャワーも好きな時に浴びる事が出来るしトイレだって行くのに申告する必要はない。当時は入隊出来るか不安だったけれど、今は普通の部隊兵として休暇でここにいるのが不思議に思えた。

 

食堂にあるビールはいつも飲んでいるクローネンブルグよりランクは落ちるけれど、ひとケースが無造作に置いてあって飲み放題だった。ワインもピッチャーに入っていて僕らはガブガブ飲んだ。ある晩飯の時ホシナが「半端に残っているビールを部屋に持って行こう!」と言ったのでそのまま持ち帰り部屋で酒盛りをした。食堂を管理している上級伍長に睨まれたけれど何も言われなかった。彼が買ったビールではないし休暇の連中でどこから来ているか知らないしという事で、僕らはそれをいい事に大体食事が終わると残りのビールを部屋に持って帰った。一応酒保はあるけれど、金のない僕らは食堂の無料ビールの世話になる事の方が多かった。

 

食事は普段の連隊の食堂より心なしか良い様に感じたけれど普通に軍隊の食事で特に何も言う事は無かった。前菜とメイン、小さいパックに入っているチーズ、デザートと、全部食べるとそれなりにお腹いっぱいになる物だった。

テーブルに着くとまずビールを飲んだ。2月に志願した時まさか自分が昼から酒など飲むなんてと思っていたけれど、今は全くそんな事は無くなっている自分に気がついて改めてフランスに来ているのだなぁなどと変な感慨に浸っていた。そしてメインの料理の頃には当然の様にワインを飲んでいる。志願者たちを横目で見ながら。

 

 

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