番外編 西アフリカ某国の日記 2

 

 

2020年2月2日

昨日はパトロールの日だったので、8時過ぎにまず最初のパトロールに出た。鉱山の敷地は一応金網のフェンスで仕切られているのだけれど、所々金網が破られている。現地のアフリカ人が煮炊きで使う木を採るために入ってくるのだ。場所によっては車も通れるぐらい大きくフェンスがない所もあり全く役に立っていない。フェンス内に入った数人を見つけては「立ち入り禁止」と言ってフェンス外に出すのだけれど、僕らが行ってしまうとまた入って来て木を切り出す・・・。

廃棄場近くのパトロールをすることに決めて出発した。鉱山の仕組みは知らないけれど、必要無くなった使用済みの水が長いチューブを使って排水される所も見回りに行ってきた。排水チューブには「シアン化塩素」と書いてある。その排水場は湖の様で、一面真っ白、干上がった塩と見間違うぐらいなのだがこれは猛毒「シアン化塩素」なのだ。その時は匂いはしなかったけれど、風向きが変わった時に「酷い匂い」が僕たちを襲ったので急いでその場から離れた。

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そこから別のサイトまで足を伸ばした。そこは閉鎖されているのだけれど、金網がない部分が100メートル以上あり、話によるとその金網は太くて丈夫なので、肉を焼くのに丁度良いという事だ。グリルド・チキンを売っている店は例外なく「頑丈なフェンス」をグリルにしていた・・・。帰り道に近くの集落を覗いて見た。生活用品は中国製の物を売っている店が数件あり、安くてすぐ壊れるのだけれど一応生活は成り立っている様だった。

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午後のパトロールは、サイトの詳しい警備プランの作成でジャンが忙しかったので、元第2外人落下傘連隊出身のシリルと一緒に出た。「工場」と呼ばれる岩から金を抽出するデカい装置がある所と採掘場や掘り出された岩で出来た山などの外周をトヨタで回った。車で回るのだけれど、ただ単に一周するだけで1時間以上かかるぐらいサイトはデカかった。

 

 

19時30分から相棒のジャンと僕らのいる「工場」と呼ばれるサイトからラテライトの道をトヨタ・ハイラックスで飛ばして20分ぐらいの所にあるもう一つのサイトまでパトロールに出た。

パトロール番は朝7時から翌朝までほぼ24時間時間を決めずに5つのパトロールを行う。パトロールのコースは特に決まっていないので、その日に前回通らなかった所などを適当に決める。

 

20時ごろサイトに着いた。そこは精製する前の金を含んでいる石を盗みに来る連中が沢山来る所だった。陽が沈むと金網に穴を開けたところから入り込み、岩の斜面を登って精製前の石を盗む。精製前の石を盗んで石を砕き金を取り出して売るのだ。1グラムの金を取り出すのに何キロの石を砕くのかは知らないが現地人には大きな収入なのだろう。

 

僕とジャンは彼らの通る道を待ち伏せすることにした。フェンスの近くに目印の木があった。フェンスの内側と外側には周回道路が走っていた。内側の道を進む。

 

暗視装置はなかったけれど僕らにはサーマルスコープ(熱源探知スコープ)があった。無線機は使えないので車に置いて来た。歩いてフェンス沿いに200メートルほど進んだ。暗闇の中を行く予定だったけれど偶然にも今夜は月夜でものすごく明るかった。泥棒達が通る所はわかっていたので、そこまで足音を立てない様に近づく。足をちゃんと上げて、足をつく時は足の外側から接地させると足音を消すことが出来る。

目的の場所に着いて耳を澄ましてサーマルスコープで辺りを探った。10分か15分ぐらいは何もなかった。その時岩の斜面の方から岩が転がり落ちる音が聞こえた。僕らは静かに左右に分かれて身を隠した。

数秒後、会話が聞こえて来た。最低でも泥棒は2人いる様だった。

 

普段の喋り方でこちらに近づいて来る。その時だ!ジャンが先頭のやつに飛び掛かった!後ろの2人は慌てて「石」の入った袋を置いて逃げ出す。ジャンが捕まえようとした泥棒は100キロ以上ある巨漢で、伏せた状態から飛びかかったジャンは如何せん体勢が悪くて、そいつはジャンを振り払って逃げた。

3人目は僕の前の開けた所を走って行く。僕の拳銃は薬室に装填してあったけれどよっぽどの事がない限り撃つ事は出来ない。そいつよりジャンが怪我しなかったかが気がかりだった。ジャンが近づいて来た。どうやら怪我はなかった様だ。僕は拳銃をホルスターに納めた。

 

彼らが置いて行った袋が2つあった。3つ目はどこか藪の中だ。それを見ていると数十メートル向こうから泥棒達が僕らの方にライトを向けた。何が起こったのかわからなくて慌てて逃げたので確かめようとして僕らの方のを照らす。こうなったら隠れても仕方がないので僕らも小型だけれど強力なライトで泥棒達がいる方を照らした。

その時、フェンスの向こうの藪の方からバイクのエンジン音が聞こえた。泥棒の仲間で、石の袋の運搬に使うために別の仲間がフェンスの外に待機していた様で、僕らのライトを見て慌てて逃げて行ったのだった。

もう一度泥棒の方にライトを向けると彼らはゴツゴツした岩の斜面を登って逃げて行った。驚くのは、彼らの履いているのは僕の様なデザート・ブーツではなくて「サンダル」なのだ。それなのにあんなに早く岩肌を登って行くのだ。僕とジャンがライトで奴らの登って行くのを照らしていたけれど、あっという間に奴らは岩の斜面を登ると逃げて行った。

3人目は僕の右側の藪に隠れているのがサーマルスコープで確認出来たけれど、岩を登っている2人に気を取られているうちにそいつは何処かへいなくなった・・・。

 

彼らの持っていた石の入った袋は少なく見積もっても30キロはある重さで、それを担ぎながら急な岩だらけの斜面を降りて来るのだった。全く信じられない事だけれど、鉱山が開いてもう数年経つので、近くの集落のほとんどはこの「泥棒」の仕方を体得しているのだろう。逃げた3人目は少年であった。

 

車に戻りながら今夜の感想を話し合った。最初の2人はジャンや僕に全く気が付かずジャンの所まで来て初めてジャンに気がついた。その時に聞き取れない、でも「なんだ!何事だ!」みたいなニュアンスの言葉を吐いて一目散に逃げ出したのを思い出してジャンと二人で笑った。ジャンがタバコを車に忘れて来たというので、売店で買ったマルボロを一本渡した。僕の事を、「禁煙したんじゃないか」という人がいるかも知れないけれど、そんな昔の事は忘れた。

 

今夜の収穫は、フェンスの外側に石の入った袋を運搬する役目をする奴がちゃんと待機しているという事だ。今までそいつには遭遇した同僚はいなかったので、明日のミーティングで同僚達に知らせよう・・・。