番外編 西アフリカ某国の日記 6

2020年2月12日

同僚の「ピエロ」とオリヴィエがパトロール番だったので、日が暮れる前のパトロールに出た。シアン化塩素が排水されるゴミ捨て場の方へ向かったらしい。そこもフェンスで一応囲まれていて、外側と内側にフェンスに沿って道があった。

一度内側をジャンと回った時に牛の足跡がくっきりと出ているところに差し掛かった。そこは少し低くなっているところで、牛の足跡はぬかるみを歩いた様になっていた。見た目は乾いているけれど、ジャンは「ここを通ると危ねぇなぁ・・・」と言ってフェンスの切れ目から外側の道に出てパトロールを続けた。僕もそこを通るのはやめた方がいいと思っていたのでそれに賛成した。こういうのは昔中央アフリカで経験している。表面がカチカチに見えてもその数センチ下の土にはまだ水が残っていて車で通ると硬い土を突き破ってぬかるみにハマり抜けられなくなる。

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その日ピエロとオリヴィエはそのまま直進する方を選んだらしかった・・・案の定表面の硬い土の下はまだ水が溜まっていてドロドロしていた。いくら日本が世界に誇る「トヨタのハイラックス」でもそのぬかるみから抜け出すのは無理だった様だ。

ウクライナ人で元第2外人落下傘連隊のアレックスと僕は今日も終わったな!と言う感じで事務所前でタバコを吸っていたのだけれどそこにオリヴィエからの無線連絡が入った。僕もアレックスも事務所にいたから無線機のヴォリュームは絞っていたのでよく聞こえなかった。リーダーのロランが笑いながら「ピエロとオリヴィエがゴミ捨て場の内周道路で身動き出来なくなったらしいから助けに行くぞ。」と笑いながら事務所の奥から出てきた。僕はあちこちの仕事で通称「Kawa(カワ)」と呼ばれている。本名は覚えづらいからいつも「バイクのKawasakiのKawaと一緒だ!」と言ってすぐ覚えてもらっていたので、その日もロランに「Kawa、行くぞ!」と言われ、ロランの運転で問題の地点に出かけた。

17時近かった。

現場の手前300メーター辺りに左に曲がるようにと言う標識が出ているのに奴らは真っ直ぐ進んで「クソ壺」にハマって動けないでいた。ロランと僕のトヨタは彼らの後方200メーターぐらいの所で止まった。これ以上進むと僕らも「クソ壺」行きとなるからだ。一度外周道路に出て彼らのところまで行った。ロープはあるので引っ張る事は出来るのだけれどそのためには近づかなければならない。外周にはフェンスがあるので、内側の藪の方から近づかなければならなかった。薮と言っても直径5センチ以上の木が生い茂っていた。仕方がないので一度内周道路に戻って元来た道を戻り、標識通り左へ曲がってピエロたちのトヨタの近くまで進んだ。道を離れそこからはバンパーで気をなぎ倒しながら進んだ。どうにかピエロたちのトヨタの近くに出た。僕らのところは一段高くなっていてそこから50メートルほど先にあるピエロたちのトヨタとロープで繋いだ。彼らのトヨタの前輪は完全に「クソ壺」に埋まっていてピエロとオリヴィエはPSP板を使ったり色々としたらしく泥だらけであった。

真っ直ぐ引っ張れないので、直径20センチほどの木を使って角度を稼ぎ引っ張った。一発目で5メーターほど引き出せた。ロープを短くして2度目で最大の「クソ壺」は出た。まだ「小クソ壺」があったので、ロランと僕は今度は内周道路から引っ張るために藪をでて来た道を引き返す。再びバンパーで気をなぎ倒しながら元来た道に出ようとしていると「バン!」と音がして気に引っ掛かった右のサイドミラーが吹っ飛んだ。一応形だけでもと言う事で、ガラスがなくなってしまったサイドミラーの残骸を拾って内周道路に戻った。途中Uターンしてバックで進む。ピエロたちのトヨタの30メーターぐらいまで近づいた。ロープを結んで3回目のトライだ。「小クソ壺」は誰がみても無かるんでいると言う事がわかる程水溜りがあった。何で2人はここを突破する暴挙に出たのか???

3度目のトライでピエロたちのトヨタは硬い部分に乗り上げる事が出来た。それでもロランはまだ半信半疑で、ピエロたちのトヨタが僕らのいる本当に硬い部分まで来ないうちは動かなかった。

帰り道僕が「やっぱり標識は守らないとな!」と言ったのがロランのツボにハマったらしくしばらく笑いこけていた。

日が暮れる前に「クソ壺脱出作戦」は一応成功したので一安心だ。夜は作業の難易度が上がるしここは暗闇に長居出来る程安全な国ではない。

彼らのおかげで晩飯に行くのが1時間も遅れた・・・。「クソ壺なんかにハマりやがって・・・」

晩飯のテーブルでは、「行けると思ったんだ!」というピエロとオリヴィエの言い訳をみんなで茶化しながら大笑いした。

 

 

2020年2月13日

今日はパトロール番なのだけれど、10時にヘリで鉱山会社の偉い人が来ると言うので会社の事務所は忙しそうだった。僕ら保安チームも、パトロール番もとりあえず事務所で待機、作業登板も待機、リーダーのロランの指示待ちになった。

鉱山会社の偉い人とピエロは一言二言挨拶したらしい。それもそのはず、その鉱山会社の偉い人というのが、元フランス正規軍の情報収集や偵察を行う特殊な連隊で大佐まで勤め上げ、その後に僕とピエロがいたソマリアの会社で一緒になったやつだった。一応Gとしておく。まさか民間で北米の鉱山会社のお偉いさんとして来るとは思いもしなかった。

 

6人3チームで回すところを、ジャンはやめてしまったし、ヤンは休暇なので4人で回しているのだけれど、人が足りないので、パトロールが終わっても完全に休みではなく、半日休み(午前中だけ)になった。新しいメンバーがいつ来るのかは分からない。6人体制で1ヶ月仕事、1ヶ月の休暇という仕組みなので全部で12人、リーダーはロランとマグが交代で勤めている。ただ12人揃っていないので、僕らのやりくりは少し大変になっている・・・。

日給月給で、僕の専門の仕事の給料と比べると安いのだけれど、休暇中も給料がつく。1ヶ月仕事、1ヶ月休暇、給料は2ヶ月出るというなかなか悪くないシステムなのだけれど、僕の専門から少し離れているのでモチベーションは低い。

 

昨日のお偉いさんの滞在で日中のパトロールは潰れたので、19時と4時にパトロールをする事にして部屋に戻った。

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アレックスはタイに住んでいてタイ人の女性と結婚しているという事だ。パトロールの車の中で日本のことやタイのことを色々話ししてのパトロールだったので退屈ではなかった。相変わらず寒かったけれど・・・。

 

朝飯はいつも以上に食べた・・・