B011 1989年2月3日(金)  「外人部隊入隊」の契約書

この日は朝5時に起こされた。朝食前にボロ戦闘服の連中だけ集められ、医務室の様な所へ連れて行かれた。

そこで、身長、体重、視力、尿などの検査をした。それから食堂に行き朝食を摂った。その中には昨日まで見なかった奴もいた。夜中に志願して来たのだろうか。 朝食はバゲット、バター、ジャムとコーヒーだけだった。太めのバゲットだったが、4人に1本だけなので、分ける奴を思わず睨む。まず半分にしてそれを半分にするという概念がない。はじの方から大体4分の1を千切る。そこからもう一回千切る。なので最後の部分は少し大きかったり逆に小さかったりする。全く理解が出来なかった・・・。

朝食が終わると再びテレビのある大部屋に戻った。しばらくするとまた集められ、少し大きな事務室前の廊下に並ばされた。名前を一人ずつ呼ばれ5、6分ごとに入っては出てゆく。

フランス軍では、戦闘服の場合胸の真ん中に約5センチ四方のベルクロの階級章をつけている。上級伍長の場合は斜めの金色の棒が1本と緑の棒が2本だ。制服になると両上腕部に今度は山型の階級章をつける。

僕の番が来た。事務室の中に入るとこれまで見たことのない金の棒だけの階級章を付けた何人かの人間がいた。斜めの棒だったり横の棒だったり。最低でも下士官(軍曹以上)なので何だろうと思っていると、その中の一人に昨日と同じ様な事を聞かれた。そしてサインしろと言う。書類は4、5枚ぐらいあっただろうか?フランス語で書いてあって、どうせ読んでも無駄だと思い全部にサインした。後で何か言われるかもしれないので全部の書類には日本語の楷書体の漢字で名前を書いた。 これが「外人部隊入隊」の契約書であった。契約は5年であるとか細かな事が書いてある。何となくそれらしい予感はしたのだが、その下士官に「5年」と何度も念を押された。すでに日本にいる時に読んだ本の中に「契約は5年」と書いてあったのでこの時は何も感じなかった。

              テレビの部屋に戻された。その時に気が付いたのだが私服の連中がいなくなっていた。きっとオバーニュへ送られたのだろう。僕たちは何もやる事がないのでまたこの部屋で時間を潰すことになる。何時間も何時間も・・・。

                            読んでくれた人、ありがとう。