番外編 西アフリカ某国の日記 13

2020年3月9日(月)

朝8時過ぎに大隊のキャンプから4、5キロ離れた所にある不整地での運転訓練を開始した。2台の兵員輸送用のPUMAとリカバリーが1台。計3台での訓練だ。僕のためにハイラックス1台が用意されていた。各車両の教官の下士官に無線機を渡し先週同様のコールサインで無線のチェックをした。全員乗車したところで無線に向かって「全車前進!」と告げた。

今日は第2中隊の訓練だ。兵士たちは一応運転免許を持っているけれどほとんど全員が走行車を運転した事がないので目的地の不整地エリアまでゆっくりと進む。目的地に着いてからは教官の下士官の指示で運転する事になるので、教官達へ指示を出す。各装甲車がそれぞれの方向に動き出して運転の訓練が始まった。僕はハイラックスの運転手に「丘の上まで行ってくれ」と指示を出す。この丘は不整地を見渡せる絶好の位置にあり、走り回っている3台の装甲車に指示を出す事が出来た。

車重があるのでハンドルは重い。なので皆運転中はシフトチェンジを嫌がる。なので2速や3速に入れたまま走るので、モーターの回転音が跳ね上がる。その度に無線でギアを上げろと指示を出す。

13時ごろにはまぁまぁ運転出来る様になった。出発地点の酒保に戻るために車列を組む様に指示を出す。酒保に着いて今夜の訓練の指示をする。18時30分には陽が暮れるのは知っていたので、18時に集合する旨伝えた。

 

ホテルに戻り一息つくのだけれどすでに16時近いので、水のボトルをバックパックに補給してホテルのフロント側のバーで昼食兼夕食用にチキンサンドウィッチを注文する。食べ終わると17時近いので出かける準備だ。17時に契約しているトヨタに乗り込む。キャンプまで30分ぐらいだ。

キャンプに着くとすでに何人かの下士官がいた。世間話をしていると次第に兵士達が集まって来た。3台の装甲車もやってくる。ハイラックスもやって来たのでバックパックを積んで集合をかける。今夜の訓練の説明をする。一通り説明が済んだので全員に乗車させて訓練場へ向かう。日暮れが近い。

訓練場に着いて車列の脇で陽が完全に暮れるまで時間を潰した。18時30分ごろ暗闇の中教官役の下士官に運転コースなどの指示を出して準備が出来次第発車してよしと指示を出して次々と装甲車が走り出す。僕は日中と同じ様に丘の上に行く様にハイラックスの運転手に言った。

各車両とも停車、発進、ギアチェンジ、方向転換などをやっている。夜間の装甲車の運転はどこの国の軍隊でも非常に難しい。ただでさえ視界が悪い上に夜間なので尚更だ。おまけに訓練生は免許取り立てで装甲車の運転には慣れていない。それにしては中々良くやっている。全員一通りの運転をしたので、丘の脇に車列を組む様に無線で指示を出した。全車集まったので、全ての灯火とエンジンを切らせて夜間の運転の感想を聞いたり補足の説明をしていた。

その時であった。5、6台にバイクが僕らのいる地点へ近づいて来た。西アフリカで活動しているテロリスト達はバイクで移動する事が多いので緊張が走った。僕が指示を出そうとする前に一人の下士官が兵士に指示を出す。その兵士はすかさず自分の持っている小銃で3連射の威嚇射撃をした。2回目の威嚇射撃でバイクの連中は慌ててUターンして遠ざかって行った。その中の一台は慌てたのかバイクが倒れるのが見えたので兵士達がドッと笑ったのが聞こえた。この時以来夜間にここで訓練している場所に近づいてくる車両が無くなった。噂で広まったのだろうか。この威嚇射撃は非常に素早い反応だったので、下士官だけでなく射撃した兵士を褒めた。

 

木曜の夜まで各中隊の昼間と夜間の訓練は続いた。金曜日はリカバリー・ビークルの説明と各車両についている牽引用の装備の説明をした。それからこれが一番大事な事だけれど、タイヤ交換の仕方を教えた。14トンもの重さの装甲車なのでタイヤもデカい。おまけにスペアタイヤの付いている位置が非常に高い位置にあるので、その降ろし方から教える。最低限の人数で行わなければならないけれど最初なので人数を少し増やす。

右後部上に付いているスペアタイヤを下ろすのだけれど、左前輪を交換するという想定でその位置まで運ばせた。ついでに車両を一周させてタイヤの重さを実感させた。順番に全員タイヤ転がしをさせた。仲間が苦労してタイヤを転がしているのを見てみんなで笑った。

みんなよく頑張ったので、時間は早いけれど金曜日だしその旨を伝えて解散させた。

ホテルに戻って週間報告書だ。同僚のフィリップに書き方を教わりフランス語でテキストを書いて英語に翻訳してどうにか報告書を書き上げた。翻訳ソフトはGingerというのをかなり前から使っていてGoogleより精度が良いので役に立っている。フィリップに教えたらあまりの精度に驚いて早速ダウンロードしていた。ただこの報告書に添付する名簿のことは知らなかったので、80人ほどの聞いた事がない様な名前をエクセルに書き込むのはボスのジェフが明日の昼まで猶予をくれた。明日は休みだけれど朝から仕事だ・・・。

 

※安全上国名は明かしません

 

コメントを残す