B124 水に浮く重さ13トンの鉄の塊

1989年19月31日(火)

今日も朝からプールでの訓練だった。水中に貼ってあるロープを伝いながらの大体往復50メートルの潜水は3回も失敗した。連隊の潜水チームの教官たちが励ましてくれて4回目にクリア出来た。

午後は、黒塗りの水中眼鏡をかけての訓練だった。夜を想定してという事だ。ボンベを使っての25メートルぐらいの潜水の最終テストは難なくクリア出来た。夕方訓練終了の証明書とバッジをもらった。勲章はないけれど一応胸に飾る記章が2つになった。しかし木曜日から実際にラスコー城の裏にある湖で実際に装甲車を使っての渡河訓練があるらしいのでそれも上手くやらないといけなかった。

 

1989年11月1日(水)

朝4時の見回りを終えて待機所に戻って来て横になった。そのあと交代の上級伍長が来たけれどみんなそのまま寝ている。今日は休日なのだった。なので一日中待機所でゴロゴロしていた。来週は1ヶ月の予定でフランス東部のブサンソンの東にあるValdahon(ヴァルダオン)という演習地まで行く。全く休む暇がない・・・。

 

1989年11月2日(木)

今日の午後と夜にラスコー城の裏にある湖で実際に装甲車での渡河訓練を行う。なので午前中は装甲車のハッチなど全てにグリスを塗った。湖に着いた。助手席に乗る。操縦手は「マリファナ」のベイカーだった。滑り止めが付いているコンクリート製の傾斜部分で一旦止まる。僕は無線を聞いているのだけれど上手く理解できないからベイカーがなんと答えたらいいか指示をしてくれた。後部には扉から水が入って来ない様に扉をキツく閉めてさらに「Pognée Rouge」ポアニエ・ルージュと言う、扉を更にキツく閉める赤いハンドルを操作する奴が乗っていた。渡河中は彼が上部ハッチから乗り出して方向指示を出す事になっていた。無線でさらに進めと指示が来た。装甲車の前の部分が少し水に入る。前の部分にある排水ポンプが上手く働いているのを確認してその旨を無線で送る。「前進!」。ベイカーがアクセルをゆっくり踏んで水の中に進んでゆく。僕の目の前が一瞬暗くなる。そして装甲車は浮いた。自分の体は水面下にある。なのにいつも通り装甲車の助手席に座って濡れもしない変な感覚を味わった。フロントグラスに波がかかる。両側の後部車輪の上あたりにいわゆるスクリューがあり今度はベイカーはそれを駆使して無線の指示通り方向転換などをする。後ろのハッチから顔を出しているやつが「もう少し右!」とか言うのをベイカーに伝える。何度か右旋回、左旋回して上陸場所へ向かい無事におかに上がった。方向転換はゆっくり少しずつやらなくてはならない。あっという間に別の方向を向いてしまうからだ。水に浮いている装甲車にはブレーキが無いからだ。

この訓練は装甲車の操縦手は必ず出来なければならない訓練で、装甲車の免許を取る時は皆必ずやると以前にカノ・シルバから教わっていたけれど、助手席から見ていてなかなか大変そうであった。何しろ全ての装備品を積むと13トンの重さになる装甲車が水に浮くと言うのはそんなに簡単に動かす事は出来ない。準備も大変であった。この時はまさかその数ヶ月後に自分やる事になるとは思っていなかった。

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夜間も同じ訓練をするのだが、今度は操縦手は暗視装置を使ってやらなければならなかった。暗視装置と言っても操縦席の上に固定されるやつで、全く頭を動かせないので極端なことを言えば前方しか見られないものであった。方向転換しないと右なり左側が見えない。この視界の限定された固定の暗視装置の見辛さは使った者しかわからないであろう。個人装備の暗視装置ならば頭を向けた方はちゃんと見る事は出来るけれども、これは中々慣れる事は出来なかった。

 

1989年11月3日(金)

一日中Valdahon(ヴァルダオン)演習地まで行く準備で、色々な装備を装甲車とトラックに積んだりした。

 

 

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