B114 靴を履いているか確認せよ!

1989年10月6日(金)

午前中いっぱい市街戦の訓練だった。第2段階だった。今回は「敵」もあちこちに潜んでいる。手榴弾などで反撃してくる。小隊は通りを挟んで左右2つに分かれ街を制圧するのだ。建物の壁をロープで登って二階の窓から侵入したりして部屋を一つずつ確認する。街の中に敵が既に潜んでいるのはわかっているので、いそうな部屋には手榴弾を投げ込む。さもなければいつでも撃てる様に銃を構えて体を死角に隠し最低限の部分だけ出る様にして各部屋の敵の有無を確認するのだ。左右に分かれた分隊は同じスピードで進まないといけない。街を制圧しかけたところいきなり催涙ガスが辺りを覆いすかさずガスマスクをつけた。ガスマスク着用での行動は、既に建物を数件確認しながら進んできて息が上がっているのでキツかったが全員この状況では動きが鈍る。段階が進むともっとキツくなるだろう。ここでは、日本の野球少年の技が役に立った。窓に目掛けて手榴弾を投げ込む時に、何人かは投げ方がいまいちで外す事が多かったけれど、僕は野球のボールと同じ様に投げるので絶対外さなかった。

午後は「青」の障害物の残りをやった。次回からは高さや距離が倍以上になる「赤」のコースだ・・・。

 

夕食後集合があった。教官の後について駆け足で丘を登ったりしばらく行くと、要塞のある場所に出て集合させられた。その時であった!4方8方から小銃音が響き、一斉に地面に伏せた。そして複数の教官の声が「手を頭の後ろで組んで両足を開け!」と叫んでいる。僕らは一転して捕虜になってしまったのだった。立たされて頭を前のやつの首の後ろあたりにくっつけて列が乱れない様に一列になり丘を上り下りさせられた。夜露に湿った地面のおかげで既に泥まみれになっていた。「半長靴を脱げ!」。そして靴下のまま要塞の一部、真っ暗な部屋の中へ中尉以下小隊全員が閉じ込められてしまった。もちろん閉じ込められる前にポケットに入っていたライターや懐中電灯は没収された。

les-souterrains
右側の白い扉をくぐって一度部屋に入らないと上の部分の丸い抜け道へとはいけない様になっていた。

閉じこ寝られた部屋には一か所だけ抜け道の様なところがあり、それを暗闇で探り当て進んで行くのだ。中には「シケイン」になっている所があり、真っ直ぐ進んで筒状の物の中に入る。そうすると行き止まりなので、その筒ごとぐるりと回ると戻ることは出来なくなるけれど、今度は前に進める様になる。狭い穴を這って進んだり真っ暗で手探りで進んだ。途中に大きな空間に出た。ぼ〜っと明かりがついていた。シュラバース軍曹が隠し持っていた小型のライトは見つからなかった様で、その明かりであった。天井を照らして部屋が均等に照らされる様にしている。酷く眩しく感じる。そこにはさっき脱げと言われた半長靴の山があった。それぞれの半長靴を回収して履く。これほど有り難く思った事は無かった。

また余談になるけれども、現在の人間は靴が無ければ遠くまで逃げる事は出来ない。石だけではなく釘やその他の物で怪我をするからだ。試しに裸足で砂利の上でも歩いてみると良い。痛くて100メートルも歩けないはずだ。尖った小石も混じっている。現代人の足の裏はそれだけ弱くなっている。ほんの小さな物を踏んだだけでも飛び上がるほど痛みを感じるはずだ。なので、敵を捕まえて捕虜にする時は、武器やナイフなどを取り上げるだけではなく靴も脱がすのが逃げない様にする為に効果的である。

捕われている味方の捕虜を救出する時は靴をちゃんと履いているか必ず確認しなくてはいけない。そんな捕虜になった人間はほかの救出しに来たブーツを履いた味方の足について行けるはずが無いからだ。本人の履いていた靴なりブーツが見当たらなければ、今しがた倒した敵の靴を脱がせて味方の捕虜に履かせる。かなり重要度が高い確認事項だ。

 

そうやって暗闇の中を手探りで1時間以上進んだ。そして草むらに出た!星空がこんなに明るく見えた事は無かった。

これは「Parcours d’évasion」(パルクール・デヴァジョン=脱出コース)という訓練であった。閉所恐怖症や、真っ暗闇が怖い奴は出来ないかも知れない。でも小隊全員いたし前の奴に触れながらの前進がほとんどだったので、全員無事に脱出する事が出来た。

 

読んでくれた人、ありがとう

 

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