B035 野外訓練第2週目 その1 バンカー

ある午後すぐ側の丘の上に掩体壕(バンカー)を構築しに登った。ひどく寒い日で携帯シャベルを持つ手が悴んだ。今夜はここで夜間の見張りの訓練を行うのだ。陽が落ち、やっとどうにかバンカー擬きの穴が出来た。夕食はレーションだった。すでに薄暗いので、ソバージュともう1人のフランス人のリブレに見張りをしながら交代で食べたほうがいいと言ったが奴らは腹が減っていて耳を貸さずサッサと食べ出した。しょうが無いと思いながら僕は1人で見張りをしていた。奴等が食べ終わったので僕は食べ始めた。食べ終わらないうちに見張りの時の報告の仕方の説明が中尉からあった。バンカーのある丘から下の方を見下ろすと暗闇の中、伍長達であろう。赤や緑のライトを点滅させたりしている。そういうのをどの様に簡潔にハッキリと報告出来るかを習った。ロサ・ファテラ上級軍曹が僕らの所に来て報告について質問をした。ソバージュが「前方に敵の師団が見えます!」と言ったので僕はすかさず「No !」と遮って「BTR2台」と言った。ソバージュは軍隊の経験が無いのでとんでも無い事を言ったのだった。それを聞いて上級軍曹は笑い出した。ソバージュに向かって「師団だとぉ?師団の正面の広さを知っているか?2キロだ。2キロだぞ?お前どうやって師団だと分かるんだ?」と言い、そして僕を指差し、「BTRはロシアの装甲車だ。よく知っているな。」と言った。陸上自衛隊にいたのでロシア軍の車両は勉強済みだった。

暫くすると中尉とルアール伍長だけになり軍曹達やロサ・ファテラ上級軍曹はいなくなった。夜10時を過ぎている。

中尉は僕らに「交代で寝るように」と言った。しかしいつ軍曹やロサ・ファテラ上級軍曹が攻撃をしてくるか分からない。僕は起きていた。ソバージュとリブレはもう寝ている。防寒用のパーカは着ていないので、代わりに背嚢からテントの二枚のうちの一枚を出した。三角形の真ん中に首を出す事が出来る様に切り込みがある。そこから首を出し三角の頂点部分を前に、底辺部分を背中にした。ちょうど腰のあたりの来る様に底辺部分を綺麗に捲っていき、ちょうどいい高さになったら前に持ってきて結ぶ。テントに使う厚い布なので、そうやって着ると少しは寒さが凌げた。

30分ぐらい経った頃であろうか?丘の下の方からガサガサ音がして空砲の連射音が響いた。だがそれだけであった。ソバージュとリブレが起きた。僕は12時頃と一番眠くなる2時か3時頃にロサ・ファテラ上級軍曹たちが来るのではないかと思っていた。中尉は「もう寝ても大丈夫だぞ!」とバンカーを廻りながら寝る様に言っていた。そんな事、僕は全く信じていなかった。ソバージュとリブレは、「中尉が寝ていいと言ってるから寝ようぜ!」と言ってまた寝てしまった。僕はレーションのクラッカーをかじりながら待った。あまり寒さを感じなくなっていた。1時間くらいそうしていただろうか?そして来た!僕等のバンカーの正面と右のほうから何か音が聴こえる。連射音と手榴弾の爆発する音だ。と同時にコンプ軍曹が走り回り皆んなのバンカーへ手榴弾を投げ込んでいる。この手榴弾は訓練用なので、音がして白い粉が飛び散る。僕は白くなるつもりはないので急いでバンカーから這い出た。すかさず軍曹は僕らのバンカーに手榴弾2発を投げ込みソバージュとリブレは真っ白になった。長い時間に思えたけれど一瞬の攻撃であった。

ロサ・ファテラ上級軍曹もいた。僕のテントの布を被った姿を見て「Très bien !」(素晴らしいぞ!)と言ってくれた。

このやり方は小学生の頃ミリタリーマニアだったので、第2時大戦の時のドイツ軍のやり方を真似たものだった。

集合がかかった。そして丘を降りた。僕は一晩バンカーの中で過ごすと思っていたから意外であった。武器を仕舞った後にキャンティーン・カップを持って集まる様に言われた。「コーヒーでも飲めるのかな?」と思って食堂に入ると何という事だ!野菜がいっぱい入ったスープが待っていたのだ!量もたっぷりありとても嬉しかった。同じ分隊でイギリス人のネイピエと目が合いお互い言葉はなかったが笑顔で頷きあった。ネイピエはいつも落ち着いていて礼儀正しかった。彼はイギリス軍の「SBS」(スペシャル・ボート・サービス、イギリス海兵隊の特殊部隊)の元軍曹という事であった。

どうにか日付が変わる前に寝る事が出来た。

                            読んでくれた人、ありがとう。

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