B 265 リラックス

    農場での新兵訓練は滞り無く進んでいた。たまに中隊長が暇な時間に様子を見に来るのだった。大体昼前で、外人部隊のワインを何本か持ってくるのだった。僕が射撃姿勢について新兵を教えていると、遠くの方に見たことのある奴がいるなぁ・・・と思っていたら、中隊長であったりした。彼の親父さんは正規軍の将軍で、それはそれでいいのだけれど、彼はランドナヴィゲーションは最悪らしかった。得意ではないのだが、そこはサン・シール士官学校出なので、なんとか言い繕っていたらしい。以前の小隊長のポーツェネム曹長の時、中隊で行軍した時など、地図を持っていながら同じところをぐるぐる回っていてポーツェネム曹長が痺れを切らして、中隊から離脱して勝手に地図通りに進んで行ったという事があったり、大変だったらしい・・・。左右どちらだったか忘れたが、指が1本なかった。それも爆破作業で吹っ飛ばしたらしいと聞いて、「この人とは爆破作業はやりたくないなぁ・・・。」と思ったのは確かだ。電気信管が1つあれば指なんて簡単に吹っ飛ぶ。僕は五体満足で退役できたのは、不発弾や爆破処理中に失敗しなかったからだと自負している。爆薬を取り扱うのは、慣れが最も危険である。EODの学校で「作業をするときは、やったことがあっても毎回初めて作業するんだと思ってやれ!」と教官に言われたので、僕は除隊してからもEODの仕事の時は、必ずそれを守っている。そのおかげで今も五体満足である。膝の手術のせいで少し不自由ではあるけれど 、ただ、どこも負傷して無くなったとかいう事は無い。
    射撃姿勢の話に戻ろう。僕が教えたのは、教本通りのことでは無かった。伏せ撃ちにしろ膝撃ちにしろ、一番大切なのは射手の姿勢である。どういう事かと言うと、本人が楽と感じる姿勢を取れと言うことだ。呼吸なり、照準なり、とにかく楽な姿勢を見付けろ!と言う事だった。基本は教えるけれど、「自分で一番楽な体勢をとれ」と教えた。軍曹連中の中には教本一本槍で教えて、新兵たちを怒鳴って萎縮させる。これでは呼吸もへったくれもない。リラックスさせるのが大事である。そうすれば言われた通りに照準も出来る。そして標的に当たる。それを覚えさせるのが仕事であったので、僕はよっぽどのことでもない限り教本は使わなかった。それにフランス語で授業をしているので、フランス語をまだ理解できない新兵ばかりなので、ゆっくりまず伍長にやらせて見せて、それから各自にやらせた。この方法は上手く行った様で、初めての射撃でビビっている新兵は僕の分隊にはいなかった・・・。

                  読んでくれた人、ありがとう

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