B 259 地図を読め!

    新兵訓練軍曹の生活が始まった。だが、まだ訓練する新兵は第4外人連隊へはまだ配属になっていなかった。彼らはまだ第1外人連隊のオバーニュにいるのだ。この中隊とこの小隊は僕が新兵訓練をやった中隊、小隊と同じ第3中隊第2小隊であったので、何か不思議な縁を感じたのを覚えている。まだ3年と少し前の事だ。
    第2外人歩兵連隊から来ているドイツ人のシュミット軍曹とは仲が合いそうだった。もう一人の第2外人落下傘連隊から来ているトルコ人のチムラン軍曹は、でかい口ばかり聞いて、常に自分が正しく、常に一番だと思っているような感じがして、「友達になれそうなやつリスト」から早々に削除されたのであった。いつも威張っている癖に、行軍の時は常に道を間違えるという話をシュミット軍曹から聞いたのはこの時で、その話は後で話そうと思う。SOAのシェフ・デュミはフランス人だけれど、そこそこの酒飲みで、数多くの新兵訓練軍曹を見てきているので、なかなか人を見る目があった。いつも穏やかで、仕事はしやすそうであった。
    その頃の僕は、車を買う前だったので、シュミット軍曹の車によく乗せてもらっていた。早速、カステルノダリーの中心部のバーへ連れて行ってもらったりした。彼は飲むのも好きであったし、食べることも好きであったので、いろんなところへ連れだってよく行ったものだ。彼とは同じ第6軽装甲師団で、いろんな話をしたし、先輩軍曹であったので、外人部隊の他にもいろんな事を教えてもらった。僕は荷物の中にホットプレートやフライパン、鍋など簡単な調理器具を持ってきていたので、シュミット軍曹が週番軍曹の時など、中隊の2階にある僕の部屋まで、飯を食いに来たり、兵士に僕の部屋まで食事を届けさせたり色々と親切にしてもらった。
    中隊長は、ドゥ・ラ・ジュディー大尉で、親父さんがフランス正規軍で将軍という事であまり評判は良くなかった。いわゆる典型的な将軍の息子という感じで、一度など、中隊での行軍の時、先頭に立って中隊の指揮を取ったのはいいものの、彼はランド・ナヴィゲーションの力量が乏しいらしくて、数回道を間違えて、同じ場所へ戻るという失態を犯したらしかった。これに怒ったのは当時小隊長でいたポーツェネム曹長で、2回目に中隊長が道を間違った時点で「怪しい」と気が付き、3度目に道を間違えて同じ地点に3度戻った時に、すかさず自分の小隊だけ中隊の列から出て目的地へ向かって地図を片手に出発したという話をシュミット軍曹から聞いて、「あのポーツェネム曹長ならやりかねないな!」と大笑いしたものだ。この話は結構な人数の当時中隊にいた事のある軍曹たちも覚えていて、笑いの種になることが多かった。特にシュミット軍曹は第2外人歩兵連隊の重迫撃砲小隊出身なので、地図の読み方などはお手の物なので、この事件当日は腹が立って仕方がなかったけれど、すかさずポーツェネム曹長が列を抜け出してやっと目的地に着いたという話をするときは心底安心したらしい。僕もこの話を聞いた時は腹を抱えて笑い転げたものだ。
    この話は、平時の訓練の時の話であり、笑い話で済んだからよかったものの、実際の戦闘になった場合は致命的な事である。地図が読めないということは軍人失格である。兵卒や一等兵ならまだわかるけれど、下士官、ましてや士官など階級があるものが犯していい失敗ではない。まず自分達がどこにいて、敵はどちら側にいるか、どんな道が走っているか、地形は、街は、河は、などいろんな情報が詰まっているのが地図である。これらを瞬時に理解出来なければ、たとえ分隊でも指揮をするのは難しいであろう。地図と言う物はいろんなことを教えてくれるので、大切に扱わなければいけない。

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