B009 面接と所持品検査

その寒い待合室で1時間ぐらい待たされた。今度は別の上級伍長がやって来た。「付いて来い」と言われ要塞の敷地を横切り大きな建物の3階か4階の事務室の様な所に連れて行かれた。その上級伍長はニコニコして愛想が良かった。まず僕のパスポートをじっくり見て何か言ったが全くわからなかった。

それから所持品検査が始まった。まずポケットの中の物を全て出せという様な事を言われた。タバコ、ライター、財布。それからバッグの中身をテーブルの上に並べろと言われた。下着、洗面用具、辞書、タバコなどはそのままで、ウォークマン、爪切りなどは没収された。それらの品目を書いて大きめの封筒に入れている。住所録も取られた。友人などの住所が書いてあってこれを取られるのは嫌だったが文句は言えない。爪切りなどなぜ没収するのかわからなかった。

その上級伍長は英語が少し話せるらしかった。「ここへ来る前は何をしていたか?」「ここに何しに来たのか?」「任期は5年だが知っているか?」など聞かれた。だから僕は片言の英語で「日本の自衛隊にいて外人部隊に志願するために来た」と伝えた。しかしヨーロッパでは馴染みの無い自衛隊=Japan Self-Defense-Forceが理解出来ない様であった。隣にいた別の上級伍長に「こいつは日本の特殊部隊の兵士かなんからしいぞ!」と言うなり笑い出した。仕方がないので「Japanese Army」(日本の陸軍)と言ってみた。彼らは一瞬目を丸くしたが理解してくれた様だった。そのほかにも色々と質問されたが、僕の英語力の無さと向こうも片言の英語なので結局上手くコミュニケーションを取る事が出来ず、終わりという事になった。そしてテレビのある大きな部屋へ連れて行かれた。

驚いた事にそこにはもう既に20人ぐらいいた。言葉の通じる者同士で固まってお喋りをしている。日本人は僕一人だ。空いているイスに座ったはいいが、なんか場違いの様な気がして気まずかった。だから解る筈もないフランス語のテレビを観ていた。すると向こうの方からアジア人が近づいて来た。そして何か言うと僕の事を同国人だと思ったのか無理やり握手をさせられた。僕が「I’m Japanese !」と言うと「なんだ、日本人か!」といった顔で元の場所へ戻っていった。

僕は何もやる事が無いし話し相手もいないのでポツンと一人、テレビの方に視線を向けた。

        読んでくれた人、ありがとう。

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