1990年7月18日（水）
今日は爆薬を使って木を倒して障害物を作ると言う、新兵の時にフランス東部の演習場でやったことのある訓練だった。でも、たくさんの赤蟻がいてズボンの裾から入ってきて時々噛まれるので皆爆薬を仕掛けるどころではなかった・・・。それが終わると照明弾ならぬ長い筒状になっている照明地雷を実際に仕掛けてみた。真昼間に拘らず物凄い明かりだった。これは陣地の鉄条網などのあたりに仕掛けると軍曹が説明した。仕掛け方は簡単で、穴を掘って頭を10センチぐらい地上に出す。信管部分にワイアーのトラップを取り付ける。それに敵が引っかかり信管の安全装置が外れると作動する仕組みで、簡単に仕掛ける事が出来る物であった。ワイアーの最低1本は鉄条網に付けると言う事も習った。敵が鉄条網を通り抜けようとして揺れるとワイアーが引っ張られて作動するようにと言う事だった。
そして本日のメイン・イベント、バンガロー（筒状爆薬）だ。映画「史上最大の作戦」でも出て来た奴だ。この筒状になっている爆薬を数本繋げて敵が仕掛けた「鉄条網」を破壊するために使う。僕らは工兵なので、「地雷原」に対しても使う。大体40センチから60センチ内に埋めてある地雷を爆破させて通路を開くのだ。
今日は通常の鉄条網を3角状に仕掛けてバンガローの効果を見てみるのだった。急いで鉄条網を仕掛けて、ダンボール製の大きなケースからバンガローを取り出して３つほどつなげる。一番最後のバンガローの根本部分に電気信管を取り付ける。待避所へ移動する。この時は僕ではなかったけれど、配線をチェックして「3、2、1」で轟音が響いた。数秒後鉄条網の破片がパラパラ落ちて来た。鉄条網を仕掛けたところを見ると、文字通り木っ端微塵で何も残っていなかった。戦争映画は好きで色々と見たけれど、映画通りでとても感心したのを覚えている。
鉄条網について。針がチクチク出ている従来の鉄条網（有刺鉄線）の他に今ではコンサーティーナワイヤー/カミソリワイヤーと呼ばれる有刺鉄線とは違い、スチールテープで作られた鋭利な刃先で触ると切れるものがある。
両方とも直径1メートルぐらいのコイル状になっていて行く手を阻むのだ。特に厄介なのは剃刀の方で、必ず厚手の革製の手袋をはめないと設置する時に簡単に怪我をする。戦闘服も切れるので厄介だった。これらを組み合わせて下段に２つ、上段に１つと3角状に仕掛けるのが一般的だ。下段専用に作られた通常の鉄条網の針金より太いのを使った「リバー」と言う頑丈な鉄条網もフランス軍は持っている。
のちに軍曹になった時に、演習場にある市街戦訓練所の防御の訓練があった。小隊長からセクターを与えられて、そこを敵が通る事を出来ない様にしろと命令を受けた。資材はあるだけ使っていいと言われたので、リバーを2列、その上に通常の鉄条網を乗せて3角状に積み上げて街（市街戦訓練所）に侵入出来ない様にした。他の小隊もそれぞれの範囲を防御している様であった。全て終わると中隊長が見て回り、その出来に満足した様で、設置した鉄条網や土嚢などはそのままにしておけと言う事だったのでそれで市街戦訓練所の防御の訓練は終わった。夕方から夜にかけて第2外人歩兵連隊がここで訓練すると言う事だったので僕らの中隊は撤収した。
翌日は陸軍航空隊と砲兵部隊のデモンストレーションがあると言う事で、広大な射撃場へ師団のいろいろな部隊が集まって見学する日だった。陸軍航空隊のヘリ「ガゼル」がやって来て20ミリ機関砲の射撃などがあった。外人部隊なので、そばにいた第2外人歩兵連隊のどこの中隊かは知らないけれど軍曹がいたので話しかけてみた。お互いに訓練内容について色々と話をした。小柄で優しそうなその軍曹の奴がいきなり怒鳴り出した！「聞いてくれ！昨日の夜は市街戦訓練所を攻撃する訓練だったんだけどよ、どっかのクソ野郎が俺の分隊の接近路に鉄条網を仕掛けやがってヨォ。俺は持っていた家で使うペンチでそいつを切ってやろうと余裕をこいていたのよ。そしたら全く歯が立たなくてヨォ、無線機から何度も早く所定の位置まで進め！って小隊長がよぉ。でもそれ以上進めなくて散々だったぜ！」とむかっ腹を立てていたのを見て吹き出してしまった！と同時にそれを聞いて昨日の訓練で設置した鉄条網の作業は成功だったと確信したのであった。流石に笑ってばかりで可哀想になったので、「そのクソ野郎のことは知ってるぜ！」と言ってやった。彼は何を言われているのかわからなかった様で、「誰だ？？？そいつは？？？誰だ？？？」と何度も聞くので、「そのクソ野郎は今お前の目の前にいるよ！」と言ってやった。今年始め西アフリカの仕事の時にそのバリア軍曹と再開した。彼もその事を覚えていていて、2人して大笑いした。
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