B 262 フレーズの頭に付けるもの

    朝は直ぐにやって来た。シェフ・アンドレスが集合の時に少し「訓示」のようなものを話したけれど、あとは3つのグループに分かれて各軍曹達に指揮権は移った。今朝の僕の授業は敵を発見した時のその場所の表示の仕方を教えた。「自分の腕の方向約200メートル、大きな木の右側、指3本分さらに右、分隊規模の敵を発見!」と詳しく簡潔に敵の場所を軍曹に報告しなければならない。ただ新兵である。そんなに直ぐフランス語で言う事なんか出来ない。まずフランス人の新兵に言わせてみる。かなりのフランス人が元正規軍出身でこれはなかなか上手くいった。自分の前方を言う時に、まずどっちの方角なのか言わせるために、「自分の腕の方向」と、敵の方角を示すやり方を教えた。これはみんな直ぐ覚えたみたいだった。あと「近くの目立つ目標物を見つけろ!」と言うことを教えた。林であったり、家屋であったり、道、河、丘のてっぺんとかなんでもよかった。けれど、相手は、「フランスに来たばかりの外国人の新兵」である。なかなか上手くフランス語が言えないので、元正規軍にいたフランス人を使ってまず言わせてみる。フランス語のそれに関したフレーズをまず覚えさせた。それから林とか河と言う単語を覚えさせた。時間が過ぎるのが早かった。大体1時間授業して5分から10分の休憩を入れるのが普通であったけれど、フランス語のわからない新兵たち相手に授業していると、1時間はあっという間であった。ここでやっと僕もタバコを吸うことが出来た。
伍長達に後で聞いたのだが、「自分の腕の方向!」と言う言い方、新兵達の間でちょっとした流行語になったようであった。何かと言うとそのフレーズを出して伍長達へ説明している新兵達が増えたのはなかなかいい事であった。笑える話だけれど・・・。トイレに行きたければそう言えばいいのに、まず「自分の腕の方向!」をフレーズの頭につけて、「多分トイレらしきところへ自分は行きたいであります!」などと言う事が増えた(笑)ここはフランスの軍隊である。新兵達は、「自分の腕の方向!」をフレーズの頭につけることによって何か重大なことを報告している気分になるのだろう。まるで「僕はほかの新兵とは違いますよ!」と言っているようで可笑しかった・・・。シュミット軍曹にもその事が耳に入ったようで、「最近の新兵達はやたらと方角を指すようになった」と言われた時は笑ってしまった。でもここフランス外人部隊では、新兵はそれが普通であったし、ちゃんと報告出来るようになる事は兵士として重要な事なのだ。

    読んでくれた人、ありがとう