B 256 熱は冷めない

    工兵としての資格講習が始まった。正規軍は、上級伍長の階級が多かった。でも僕よりかは経験がありそうな連中が多かった。第17落下傘工兵連隊の連中はカンボジアでの作戦帰りが多くて金回りが良さそうであった。一人などは「次の給料で車を買う!」と言っていたが、その通り次の給料が出ると、早速黄色のアウディで帰って来た。
    それ以外はとにかく金がなかったので、ビリヤードでエリックという正規軍の軍曹とビリヤードで時間を潰すことが多かった。それもルールを少し変えて、ダイレクトで穴にに入れるのではなく、ワンクッションしてから入れる様にした。そのおかげでワンゲームの時間が伸びたので、ビリヤード・テーブルの賃料を節約できた。それにエリックは車を持っていたので、楽に街まで出ることが出来た。そのほか、タンダーという軍曹とも仲良くなった。2人とも正規軍も普通の工兵連隊出身で、落下傘連隊と違ってとにかく金が無かったのでそうやって暇を潰した。彼らは外人部隊兵にあった事が無く、日本人の僕が流暢にフランス語を話すのを見て驚いていた。
    タンダー軍曹とはその後会うことはなかったが、彼は、当時乗っていたルノー5をよく僕に貸してくれて飲みに行ったり飯を食べに行ったりした。おかげで車の運転が上手くなった。エリックは当時から士官になるのを目指していた様で、連隊が第17落下傘工兵連隊へ移動になる前かあとかはわからないが、僕が曹長として演習地の市街線の地域でP4に乗ったエリックと偶然会った時には「中尉」の階級章をつけていたので、彼は無事に士官になるという夢を果たした様であった。それに僕を覚えていてくれたのも嬉しかった。それ以外の連中とはその後何年も会うことはなかった・・・。
    講習の長はクトー曹長と言って口調は何かと細かいところが煩そうであったがなんとかなりそうであった。僕は初めてのことばかりで、おまけに正規軍の連中とも仲良くなれたので楽しく講習を受ける事が出来た。
    ある日の12、7ミリ重機関銃の射撃の日であった。この銃は射撃していると銃身がすぐ熱を持って熱くなるのだが、その日は、最初のうちは頻繁に銃身を交換していたけれど、銃身交換は結構微調整が必要で時間がかかるので、それも訓練だと最初のうちは黙って見ていたけれど、そのうちに我慢ができなくなったのか、クトー曹長は熱くなった同じ銃身で射撃する様に言いそのまま射撃を続けさせた。冷却用に銃身に塗ったオイルがみるみる蒸発してゆく。塗る時に使ったプラスチックの刷毛の毛の部分が重心の熱で溶けてしまい使い物にならなくなった。
    射撃がやっと終わったけれど、オイルや外気温だけでは銃身を冷却するには足りなくて、車両に積み込む際には銃身を外さなくてはならないのだがみんなその作業を嫌がった。僕がおかしかったのはクトー曹長であった。外人部隊でもやらない様な無謀な射撃の仕方であった。合計1000発は超える弾を同じ銃身で撃ったのだ。これはいくら外人部隊といえどそんな無謀はしない。せいぜい200発300発ぐらいが関の山だろうからであった。そのことはマニュアルにも書いてある。それを、普段から真面目一徹のクトー曹長がそんなことは気にしないという態度もおかしかった。そして僕らは苦労して銃身を外して車両に積み込みキャンプ地へ戻った・・・。

                読んでくれた人、ありがとう

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