軍曹になると、俄然自分の小隊への教育が中心となる。僕は兵士としての工兵の訓練は受けたけれど、下士官としての工兵の資格はまだ何も持っていなかった。訓練が始まると、自分が何も知らないということを痛感した・・・。工兵の軍曹として、資格が全てであった。この時の小隊長は「トンボラト中尉」と言って下士官上がりの中尉であった。彼は字が下手くそであったので、毎日午後に翌日の訓練内容などの命令書を書くのだが、何を書いているのかさっぱりわからない日が多かった・・・。同僚のイギール軍曹に聞いてもたまに不明な事があった・・・。なので、日番伍長に次の日の準備をしろとは言うけれど、書いてある内容がハッキリしないので困った事が多々あった。
その時の僕の目標はCT -1(Certificat technique 1dégré=技術証明第1段階とでも言おうか???)であったので、そのための特別授業があった。おかしいのが数学の授業で、僕同様に試験を受けなければならない軍曹や上級伍長の中には中卒程度の連中がかなりいた。なので、分数の計算や、ルートを知らない奴らが結構いた。僕は普通に高校を出てそれなりの教育は受けたはずだ。なので、数学の授業は問題が書かれているフランス語を理解するだけでよく、大した難しくなかったと記憶している。だが試験はまだ数ヶ月先だ。もっと他に覚える事があった。装備品についても、なぜそれを使うのか???どうやって使うのか???その数は???などである。それらが書いてあるTTA705やGEN301、それらの専門書を中隊副官の事務室にある書庫から借り出して一生懸命読んだものだ。同僚のイギール軍曹はすでにCT -1の資格は持っていて色々と助けてもらったものだ・・・。とにかく工兵は知識がなくては始まらない。
歩兵のCT -100(歩兵は兵科ナンバーは00)は2ヶ月ぐらいで資格を取る事が出来るが、CT -104(工兵は兵科ナンバーが04)は3ヶ月半と長い。それだけ覚える事が多かった・・・。それだけではない。自分達の装甲車VABの諸元をAからZ(全長、車重、馬力、各部のオイルの番号、その量、ウインチの使い方など)まで完璧に覚えなくてはならなかった・・・。この授業は、連隊の車両整備係の長である上級曹長自ら授業を行なったり、中隊のメカニックの軍曹などがあたった。そのおかげで装甲車VABについてはカタログに載っていないいろいろな話を覚えた。一度など、89年の演習で山に行った時、あまりに寒くて朝の10時過ぎまで1台も装甲車のエンジンがかからなかった事があり、その話になって、そう言う時はどうすればいいのかなどを教わったりした。この演習は僕もよく覚えており、その寒い日はちょうど駐車場のガードをやっていたのでよく話がわかった。あの日は大変であった。
また、同僚の中には、資格習得の前の試験を落とした者がいて、そいつの話は貴重であった。試験の内容だけではなく、車両の試験官についての話が興味深かった。試験官は3人いて、民間人の技術者が2人、それから軍のメカニックの先任下士官が一人いて、その先任下士官は当たらない方が良いと言う事であった。また、試験会場はAngers(フランス北西部、レースなどで有名なル・マンからそう遠くない)にあるフランス陸軍の工兵学校であった・・・。とにかくそのCT -104と言う資格は軍曹として必ず取らなければいけない資格なので、真面目に勉強したのを覚えている。だが、それは外人部隊の在隊時でもまだマシな方であった・・・。
読んでくれた人、ありがとう
MOSにも簡単なものから難しいものまで色々とあるけど、資格と知見があるかないかで部隊内での評価が大きく違ってくるし、評価よりも仲間同士の信頼が大事なので何度も何度も覚え直し、新しい情報を仕入れる探究心・研究心を持ち続ける事が大事なんですね。 フロンティア 西野