今回はフランス外人部隊の下士官について
フランス外人部隊で下士官になるためには、別に特別な技能などは必要ない。ただ単に成績が良くて体力がそれなりにあれば下士官への昇進が望める。それに加えて、志願した時にオバーニュで行われる知能指数を調べるテストで20点満点の12点以上を取れば良い。僕は20点中16点だったらしい。日本人は基礎教育が他の国に比べて進んでいる方なので、成績は悪くないと聞いたことがある。だいたい中卒ぐらいの学力があれば問題ないだろうと思う。これからフランス外人部隊に志願を考えている人もいるかと思うけれど、そんなに真剣に考える事はない。日本人なら大丈夫であろう。それから体力面だけれども、外人部隊では体力がないと生きてはいけない。まず駆け足だ。運動着で8キロメートルを40分弱ぐらいで走ることができるなら上々であろう。外人部隊では戦闘服で走るけれども。それから、腕立て伏せは兵士への罰則としては世界共通と思われるので、それも鍛えておくほうが良い。30回から50回出来るのが目安と言えよう。あと大事なのはフランス語だ。英語の成績がいくら良くても、フランスではほとんど役に立たない。フランス外人部隊はフランスの軍隊なので、命令は全てフランス語なのだ。志願する前に少し基礎を齧ったぐらいでも実際志願すると違いが大きくわかるはずだ。僕も新兵訓練では苦労した。おかしなもので、フランス語をうまく話せない外国人同士でも、フランス語で意思疎通をはかるという、側から見たらおかしくなる事が外人部隊の生活で普通にあった。僕もそうやってフランス語を覚えたものだ。フランス人は不満ばかりで、中々仲良くはならなかったけれど、伍長ぐらいになると、そういうことを含めて小隊長の中尉や軍曹が言っている事が理解出来るようになるし、なんとなくここでの生活も悪くないかなと思うようになる。そのうち、駆け足が速いとかいつも真面目に仕事をしているという事が評価をされ始める。そうなると、軍曹訓練コースへの道が開ける。
軍曹訓練は以前に書いたので割愛するが、軍曹になると、まず給料が上がる。昔は、伍長の時で3500フランだったのが6500フランになった。今はユーロになって定かではないけれど、それぐらいの違いがあった。もちろん独身で。妻帯者はさらに手当が付く。
それからやっとクレジットカードを作ることが出来るようになる。僕も軍曹になって初めてクレジット・カードを作った。今でいうVISAカードだ。今では給料が自分の口座への振り込みだが、僕はカードもなく、当時の給料は現金払いだったので現金生活であった。
鉄道の割引が兵士にはある。2等車だ。フランスのすべての国鉄は、75%引きであった。これが下士官になると1等車も使う事が出来る様になる。なので軍曹になりたての時は黙って2等車を使っていた僕も、しばらくすると、贅沢の味を覚えたのか、除隊するまで2等車は使わなかった。主にパリに行くときにTGV(フランス高速鉄道)を使うのだけれど、2等車が2列2列の4列なのに対して、1等車は2列1列の3列で座席の広さが違った。
また結婚も比較的許可が降りやすくなる。兵士(2等兵から上級伍長まで)では難しかった結婚ではあるが、下士官になると、連隊長の許可もおりやすい。
これは軍曹の話ではあるけれども、資格を取らなければならなくなる。軍事技術証明第1段階というもので、Certificat Technique 1Dégré と呼ばれる。これを取らないと一人前の分隊長とは呼ばれない。兵科によってコースの長さは違う。00(歩兵)は2ヶ月ぐらいだったが、工兵は04だったので3ヶ月以上かかる。
勤務成績がいいと上級軍曹のなる人もいれば、僕が軍曹の時はCertificat Militaire 2Dégré(軍事基本証明) というものがあって、それを取らないとなかなか上級軍曹(シェフ)にはなれなかった。僕がCM2をやった時はシェフが2、3人いた。
これで終わりではない。今度は小隊長になるための資格がある。CM2もそうだが、今度は技術証明を取らないとシェフのまんまだ。それ以上上に行きたければ、今度はCT2というコースがある、本試験の前に「こいつは本試験を受けるに値するやつか???」というわけで、予備試験がある。この試験に落ちると1年浪人することになる。これに受かった時は、この日はもう夕方で、すでに下士官クラブでいっぱいやっていた普通の日であったが、連隊本部の上級曹長が血相を変えて「オイカワ!連隊長が読んでいるから、服装はそのままでいいから連隊長室にいけ!」と下士官クラブに入ってきて言われた。僕は飲み掛けのビールをカウンターに置くと連隊長室へ急いだ。連隊長は最初黙っていた。僕は咄嗟に「何かヘマをしたのか???」とばかり考えていたが、やっと「休め!」と言われ、姿勢をとると、連隊長は握手を求めてきた。「おめでとう。予備試験合格だったと連絡が来た。日本人であるお前がこの難しい予備試験をよくやった!」という事だった。僕は一安心した。どの曹長や上級曹長に言わせても「予備試験が一番大切で、本試験やコースが始まれば後は楽だ!」と言われていたからであった。その後、3ヶ月半という長い期間のコースではあったけれど、無事に終わり、一選抜で「曹長」に昇進したのであった。なので僕は3年しかシェフをやっていない。
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