B 242 脱走兵

    第4外人連隊では新兵訓練中よく脱走が起きる。そうするとすぐPolice Militaire(ポリス-ミリテール=憲兵)に連絡が行き脱走兵の捜索に入る。その時人員が憲兵だけだと足りないので順番で色々な中隊から人が集められる。脱走兵が通りそうな場所に人員を配置して監視するのである。僕も新兵訓練伍長時代にツールーズの駅に配置された事があった。同じ連隊のラニェーと暇つぶし?監視任務もそっちのけで映画を見みに行った事があった。どういう順番かはわからないが今回は下士官訓練小隊に順番が回って来たらしく、ベトナム出身の第2外人落下傘連隊から来ているシムと第2外人歩兵連隊から来ているフランス人のヴェドーが駆り出された。そこまでは良かったのだがそれが彼らの悲劇の始まりであった。彼らは監視役でカステルノダリーの駅に配置された。そこまでは良かったのだが、どちらが言い出したのかは定かではないが、2人はカステルノダリーの駅のそばのディスコに入って酒を飲んでいたのを発見されたというのだ。早速翌日自分たちの連隊へ送り返された。これは聞いた話だけれど、この監視役になると伍長だろうが下士官候補生だろうが私服に着替えての監視任務を行う。しかしこれには笑い話があって、2人の坊主頭の私服を着たいかにも兵隊くさい奴が草むらでじっとしてタバコを吸っていると、フランス憲兵隊(Gendarmerie)に通報された事があるから気を付けろというものだった。そいつらは脱走兵が通りそうなところに待機して監視任務をしていただけなのに・・・。
    ヴェドーは面白い奴でいつも周りにいる連中を笑わせていた。それに同じ部屋で同じグループでもあったので非常に残念であった。彼らの下士官昇進の夢はここまでであった。何をどうやったのかは知らないが、その後シムは下士官訓練コースに戻ったらしく下士官になっていた。僕が爆発物処理班の個人遠征でニュー・カレドニアに行く前にパリ外れにあるノジョン要塞に一泊した時に、第2外人落下傘連隊の1個中隊がどこかに展開する予定で来ていたのだけれど、下士官クラブでシムを見かけた。僕は既に曹長であったしシムとは特別仲が良かったわけではないので、カウンターのバーテンダーと話をしながら僕は自分のビールを飲んでいた。
    
    現在ではあまり真剣に探さなくなった様に感じる。脱走兵が逃げているかぎり契約は続いていたけれど、最近はそれも無くなった。逃げた人間は追わず!に変わってきた。僕が当直下士官の時だったか???一人の民間人ぽい男が「自分は何々中隊の何某です」という奴がいた。脱走はしたが持ち金がなくなったので舞い戻ってきたのだ。基地の営倉に入れるかと言うとそうはいかず、そいつの契約は終了扱いになっており「外人部隊兵何某」と言うのはもう外人部隊内では存在しておらずただのムッシューになっていて、外人部隊内の講座の自分のお金も下ろす事ができず路頭に迷う奴が吸増したものだった。何しろ脱走兵には捕まるまで給料が支払われているので部隊の口座に溜まりっぱなしで国としても無駄な出費になる。なので早めに契約をお仕舞いにして「ムッシュー」にした方が安く上がるのである。そいつはそれまでなのだ。

                   読んでくれた人 ありがとう