B 237 「キセル」

段々と訓練する内容が濃くなってきている。さすが下士官訓練コースだ。戦闘訓練はドカルモ先任の授業で、まず簡単な分隊指揮の仕方から始まった。何度も繰り返して命令の出し方を習う。試験に向けた様にも見えたが、僕ら外国人の生徒にとってはありがたかった。難しい言い回しがあるからだった。その点歩兵部隊から来ている連中は楽そうに見えた。僕は工兵連隊から来ているので新しい事の連続であった。

「偵察」だけでも2種類の基礎からなっており、それらを完璧に覚えなくてはならなかった。これらの訓練はBDUつまりカステルノダリー南西30キロ程にある中隊が所有している農場で、今週は一大イベントが控えていた。BDUから山岳部のヴィルモリーという屋外射撃場までの夜間行軍であった。そこまでは地図上では30キロメートルぐらい歩くという事であった。小隊を3つのグループに分けて各自行動計画を立てて出発すると言う物であった。

ただこれには隠れた目標があった。いかにして「キセル」をしてこの行軍を終えるかと言う物だった。僕のチームにいたコフマンは第4外人連隊でメカニックをしているやつで、車を持っていた。なので僕らのチームはコフマンの力を借りて「キセル」の準備を始めたのだ。彼のカミさんもこの「キセル」に加わる事になった。

コフマンは公衆電話でカミさんへ指示を出して待ち合わせ場所へと誘導する。行軍の中間地点には、シェフ・ポーツェネムが、必ず通過しなければならない点を設置していたので、2組に分かれた僕らは、その地点手前で車を降りる。もう一往復して残りのチームを拾ってくる。全員揃ったところで時間を合わせてゆっくりと歩き出すのだ。そのことは別に怪しまれなかった。

疲れた顔をして無事通過点をやり過ごした僕らは、射撃場まで10キロ弱の所にあるカフェで車を降りた。みんなでコーヒー休憩を取り「さぁ、行こうか!」と背嚢を背負い真っ暗な道路脇を歩き出した途端、後ろから車の気配を感じたので道端へ避けた。

なんと、真っ黒な車2台が通り過ぎて行く。ライトというライトが消されている。一度先頭の車が少しブレーキを踏んだ時だけブレーキランプが点いたけれど、それ以外は真っ黒な2台であった。種を明かせば、それは第2外人落下傘連隊から来ているベルチエールのチームが乗っていたという事だった。

僕はチームを率いて道路を急いだ。射撃場まで大した距離ではなかった。着いたのは明け方3時ぐらいだったろうか???僕がその辺の草むらに平らなところを見つけると寝袋を広げた。夜食用に、最近売店で売られる様になった「出前一丁」を持っていたので作って食べた。真夜中の射撃場の草むらで、しみるラーメンであった・・・。

読んでくれた人ありがとう。

 

 

 

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