B 221 こんなことで死ぬために外人部隊に来たんじゃ無いだろ!

1991年5月2日(木)

給料は、小銭を除いて中尉が全て集めた。各自の口座へ入れるのだ。そうする事によって盗難などの問題にならないようにするのだ。それに、連隊に配属になってから新兵は何かと物を購入する必要があるので新兵訓練期間の給料はほとんど貯金に回される。それに新兵たちは勝手に酒保には行くことは出来ない。金の使い道が無いのだ。

集金の後、すぐに中尉に呼ばれた。まず。僕の勤務態度を褒め、禁止事項を守らなかったことを注意された。

その日の午後遅く、再び中尉に呼ばれた。「言いにくいことだが、中隊長の大尉の耳にもこの話が届いたらしく、明日朝10時に制服で中隊長の元へ出頭して事情を説明しろ」と言われた。しかし、「警告だけで済みそうだから、これからは気をつけるように!」と言われた。

 

1991年5月3日(金)

朝10時に制服に着替えて中隊長の元へ出頭した。まず事情を聞かれた。僕は「日本人の新兵が沢山いて、親睦を深めるために、禁止だとわかっていたけれど、中隊の隊舎へビールを持ち込んだ事、それについてはすごく反省している、」などを述べた。中隊長もまず僕の勤務態度を褒めてくれたのち、「規則は規則なので、お前の勤務態度に鑑みて今回は警告だけにとどめておく」と言った。僕はもっとひどい罰かな?と思っていたけれど、警告だけで済んだのでホッとした・・・。

午後は射撃で、夜20時ごろまでかかる。最近の射撃の時は僕が弾薬係を務めることが多く、射撃統制官である中尉の脇のテーブルで弾薬を数えていた。射撃指示が出たので、照準規正用の25メートル先の標的を見ていた。その時だった。左から2番目の標的が左右にグラっと動いたのだ!僕はすかさず「射撃中止!射撃中止!」と大声で叫んだ。一同僕の方を見る。僕は標的から目を離さなかった。その時になってグラグラしないように標的を直していた新兵が標的の後ろから出てきて壁際の出口の方へ走っていった。彼は、標的の弾痕跡に穴を塞ぐためにシールを貼る役もしていた。もしそのまま射撃していたらと思うと、いくら新兵とはいえ25メートル先の標的は外さないだろう。大事故になる所であった・・・。僕以外誰も気づいておらず、ビックリした事件であった・・・。焦ったのは中尉であった。危うく死亡なり大怪我になる寸前だったからだ。軍曹たちも「何事だ???」という状態であった。

どうにか射撃は終わったけれど、武器掃除の間、新兵たちはその事件の話題でいっぱいであった。標的の後ろにいた新兵は東欧出身のやつでちょっと大人しい奴で少しトロいところがあった。自分がそんな事件を起こした事などイマイチわかってないようであったので、なんで自分にみんな話しかけてくるのか訝しがった・・・。僕はその新兵にゆっくりと何があったか話して聞かせた。その時になって自分が何をやったのか理解したようで、顔色がみるみる青くなっていった・・・。「こんなことで死ぬために外人部隊に来たんじゃ無いだろ!」と2、3回言い聞かせてやっとちゃんと理解したようだ。危ない所だった・・・。

 

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