B189 札束をもらってもいいのか???

1990年8月1日(水)

第2小隊に新しく来た軍曹が交通事故で亡くなったという事で今朝は連隊で集合した。

その時に気がついたのだけれど、フラダン中尉は今日付で大尉に進級した。まっさらな階級章をつけている。中隊次席指揮官になるという事だ。

 

そのあとは給料を受け取った。休暇用のお金は夕食前に申告した分を各自受け取った。可笑しかったのは、階級が上の者(伍長)から受け取るのだが、伍長達が申告したのは3万フランとか4万フランと結構な金額で、500フラン紙幣で受け取っていた。僕は下から数えた方が早いので後の方だったのだけれど、なんと500フラン紙幣が無くなってしまい、200フラン紙幣で渡され始めた。そのうち200フラン紙幣も底をつき、100フラン紙幣になっていった。僕はギリギリ200フラン紙幣のグループに入っていたけれど、それでも申告した2万フランを200フラン紙幣と100フラン紙幣で受け取った。見たことのない札束になった。昔日本にいた時にテレビで見た、悪役が札束を見せるとか、そんなものではなかった。当時のフランス紙幣はただでさえ日本の紙幣よりデカかったので、人生でも見た事のない札束であった。それでも僕はまだいい方で、50フランの紙幣が混じっている奴らの札束は胸のポケットに入らないので、戦闘服のズボンの腿のところのカーゴポケットに入れなくてはならないくらいであった・・・。

最後の2等兵の連中は50フラン紙幣も混じっていた。連隊の会計課は、申告された金額を渡すのが仕事で、紙幣が何フランだろうと言われた仕事をするだけなので文句の言いようが無く、分厚い札束で膨らんだポケットの第2小隊の僕らは笑いながら中隊に戻った。

うまくしたもので、伍長達は500フラン紙幣ばかりで細かい札が無く、僕ら下の者を相手に両替に忙しかった。僕も伍長から両替を頼まれていくらか忘れたけれど、僕の方こそ嵩が減るので喜んでそれに応じた。

中隊に戻ると、休暇に出発するまで札束を各自封筒に入れて小隊長に預けた。

 

休暇について。3週間の休暇であった。僕が休暇用に申告したのは2万フランであった。なのでざっくり言うと1日あたり1000フラン近く使う事ができる計算になる。国内の給料の4分の1ぐらいの額だ。今のユーロと違って当時のフランはなかなかの使い出があったのだ。ギターが欲しかったのでその予算を別にしても、毎日楽しく過ごせそうだった。ホテル代がもったいないので、志願したパリ郊外のノジョン要塞の休暇兵用の宿舎に泊まろうと言うことにして実際に要塞へ行くと、そこの大尉との面接で「大金だから金庫に預けて、毎日少しずつ渡すから取りに来い」みたいな事を言われたので一目散で要塞から逃げ出した。とんでもない!そのあとどこに泊まったかは覚えていないけれど、毎日日本人の部隊兵達と昼からバーをはしごしたり日本食レストランで値段を見ずに「これとこれとこれ!」などと言うとにかく食べたいものを好きなだけ注文すると言う、なんとも荒んだ毎日を送った。夜は夜で日本のカラオケバーに繰り出した。「今日も夜9時にいつもの所で!」と言うのが口癖であった。あまりにも毎日来て大量に飲むので、バーの店主から1日1本のウイスキーのサービスがあった程である。

この年の夏は近年無いくらいの暑さで日中おもてを出歩くのは汗だくであった。なのでビールの消費は激しいものがあったしみんな若かったからワインだビールだ酒飲みの集まりであった。もう少し考えてお金を使えばよかった・・・など1ミリも浮かんで来ず、今考えるとかなりもったいない過ごし方をしたものだと思う事が無いわけでは無い。ただ、この当時の部隊兵の休暇の過ごし方は国籍を問わず大体同じ様なものであった。

 

マルタンもパリに行くと言うので、同じTGV でパリまで一緒であった。 TGVに乗り込むと2人で早速バーのあるワゴンへ向かう。当時はアヴィニョンからパリまで4時間ぐらいかかった。けれど、その間中バーにいて飲んでいた。しまいにはビールが売り切れになったのでワインを飲んだ。そうこうして居るうちにパリに到着。その夜はオペラ座近くの日本食レストランとかが沢山ある通りの安ホテルに泊まった。

実際パリに着いたら、この時期はみんなどこの連隊でも休暇に入るので、オペラ通りの、メトロ「ピラミッド」のところにあるカフェで飲んでいると必ず誰かと会う。第2外人歩兵連隊の日本人も数人休暇でパリにいたので、毎日どんちゃん騒ぎであった。僕の連隊のビトウさんやタケシタ君も同じ時期の休暇だったので、この時の日本人部隊兵は全部で10人ぐらいだったか???荒んでいたけれど、記憶に残る休暇であった。

 

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