アフリカ中西部日記 12

いよいよ評価演習開始だ。いつも通り8時少し前に訓練場所に行く。もう兵士達が集まっていて驚いた。いつもなら9時ぐらいにならないと集まらないのに・・・。中隊長役の中尉を捕まえて砂盤の所へ行って説明させた。昨日説明を受けたときに気づいていたけれど、入り口のゲートの両脇に設置されなければならない機関銃の位置が示されていなかった。VBIEDが突入して来た時やPBIEDに対処する為の機関銃なのでとても重要だった。

 

演習開始は8時半からだったので、無線機のテストをさせた。つながりが悪い・・・。8時半になったので、中隊に命令を出すように言った。中尉は「砂盤」の周りに中隊を集合させて状況説明が始まった。状況説明はまず「敵の状況」、「味方の状況」、「中隊がもらった命令」、それについての「各小隊への命令」へと続く。中尉は自分が受けた命令のことで頭が一杯らしくて、「敵、味方の状況」が抜けていた。僕は評価をする立場なので言葉は交わさない代わりにA4の紙にノートをとった。見られても僕が何を書いているか誰もわからないだろう。何せノートは「日本語」で書いていたから。左半分は「悪い点」、右半分は「良い点」という風に書き込んでいたけれど、「悪い点」の方が多くなりそうであった。状況説明に中隊全員は必要ない。小隊長だけいれば良い。こんな大人数でやる必要はない。簡単簡潔に各小隊長に命令を出せば良いのに・・・と思いながら中尉の状況説明を聞いていた。誰一人として「メモ」を取るものはいなかった・・・。

中尉は最後に「質問は???」と全員に聞いた。すかさず一人の兵士が手をあげた。「何を言っているのか全然わかりませんでした!」。全員笑ったが中尉の説明はフランス語であった。しかしかなりの数の兵士はフランス語が得意ではなく現地語を使っていた。なので今までの僕の授業の中でもかなりの時間をさいて下士官たちに通訳させていた。結局中尉は同じ説明を現地語でする羽目になり時間を無駄にしていた。「状況終了」は11時30分だったので、中尉は無線で司令部へ何かメッセージを送っていたが上手く繋がらない様であった。

とにかく始まった。人員を配置、ゲート先のシケインの前にも人員を配置する。状況中には「敵役」になった「第1中隊」のメンバーがデモ隊に扮したり車で来たジャーナリストの役、医務室で診療を受けたい民間人役などに扮してゲートにやって来るという設定だった。その時中隊をどの様に指揮するのかというのを評価するというのがこの演習の目的だった。大体3つのシナリオを最低でも行う事になっていた。まず最初に来たのはデモ隊だった。予備の小隊が呼ばれゲート前に来たデモ隊の制圧だ。ゲートから一歩も中に入れてはいけない。入り口には「コンサーティナ・ワイア」が引いてある。鉄条網はトゲトゲが刺さるけれど、この「コンサーティナ・ワイア」は細くて薄い板状で刺さる代わりに「切れる」。素手では取り扱いが非常に困難な厄介な代物だった。分厚い革製の手袋がないと扱えない。デモ隊の指導者役を見つけどうにか妥協案を探るのが目的だった。とにかく落ち着かせなければならない。デモ隊の要求は大体どこの紛争でも同じで「食料」、「医療」が主だった理由で、少しでも平和維持軍からそれらを貰えないか試しに来るのが常だった。問題なのは「食料」で、少し分け与えると毎日の様にやって来るので、分け与える量が問題だった。それに「軍」は任務で来ているので分け与える量の限界がある。それらを落ち着かせるためにデモ隊の指導者と交渉しても良いという「雰囲気」を作り出してデモ隊を落ち着かせるのだ。「食料」なら「国連」のところへ行け!と思うかもしれないが、以前書いた様に「食料」は「末端」まで行き渡っていない。その証拠がデモ隊だ。

どうにかデモ隊と交渉してデモの指導者とその護衛を基地に入れて話をしようという事になり落ち着いた。

 

次にやって来たのは妊婦を連れた男だった。身体検査は入念に行わなければならない。女性の身体検査の時の為に女性兵士が待機していた。すぐ脇にいた男の兵士が付き添い役の男を身体検査している。その時ある言葉が大声で発せられた。「XXX!」一斉に兵士達は待避壕へ走りだす。女性が付けていたIEDを発見したのだ。PBIEDだ!基地にはEODチームはいない。IEDの操作は本人がスイッチを持っている時もあるし、それに加えて「監視役」がいて遠隔操作で爆破させる場合もある。本人が怖気付いてスイッチを押せないでいる時のためだ。いずれにしろ爆発するのだ。映画「ハート・ロッカー」を見た人ならわかると思うが、南京錠でがんじがらめにされた男性が出て来るが、いくらEODチームでもそんなIEDは処理し切れないのだ。いつ爆発するかわからないIED、手の施しようがないのだ。

今回の「妊婦」はそのケースだった。その時ジェフが来ていたのだけれど、僕は質問された。「KAWA,こういう時はどうするんだ???」、僕はすぐ「映画ハート・ロッカーを見た事がありますか???あれと同じでいくらEODチームでも出来る事はほとんど無いですねぇ。」と答えた。合言葉で待避壕へ逃げた兵士達はいいが、残された「妊婦」はどうするんだ???と、疑問が残るシナリオだった・・・。周囲を徹底的に捜索して「監視役」を発見するしかない。ただ「監視役」は爆発させて一人でも多くの兵士を道連れにしたいので簡単には見つかるまい・・・。

 

3つ目のシナリオは基地内に迫撃砲弾が落ちて怪我人が出たという想定だった。医官の中尉が僕の脇にいた。彼も僕と同じ様に評価する側にいた。爆発したという事にして、怪我人役の兵士が技面に倒れ込むと呻き声を発し始めた。死人もいる。驚いた事にこの炎天下、一人の兵士も怪我人達を日陰に退避させたりしなかった事だ。僕は呆れた・・・。マジかよ・・・。少し経って衛生兵達がやって来た。メディカルキットを開いて治療にあたる。折り畳みの担架を開いて負傷者を乗せる。非常によく訓練された衛生兵達で、これには専門外だけれど目を見張った・・・。

 

この様にして一応管理中隊の演習は意外と早く終わった。11時15分に会議室へ集合と無線が入り、脇に停車していた救急車をタクシー代わりに司令部へ向かった。司令部に着くとすぐ評価が始まった。パトロールの任務についてやコンボイ(車列)の任務、そして陣地防御についてそれぞれの中隊の評価を行った。管理中隊は問題点は多かったが下士官が多いおかげで統制は取れており、一番最初にしてはまぁこんなものだろうという評価をした。月曜日は第3中隊の番だ。各中隊の中隊長達は「先発隊」として既に紛争地へ出発してここにはいない。第3中隊もこの演習では先任の中尉が指揮をとる。週末は中尉同士で反省点などを話し合うらしいので月曜日は今日より良くなっている筈だ。

 

 

 

月曜日、第3中隊の番だ。僕が到着すると既に砂盤や入口のシケインなど終わっていて状況説明をするだけとなっていた。8時10分ぐらいだったか???僕はまずタバコに火をつけてから、一口ボトルの水を飲んだ。8時半になった。中尉に「開始!」と伝えた。昨日もそうだったけれど、ここの現地軍の使っている無線機は調子が悪く、司令部を呼んでも繋がらなかったので、僕らが使っている無線機を貸した。司令部と無線テストをして状況開始準備完了を伝える。この中隊は何も不可もなくと言ったところだった。相変わらず機関銃の位置が悪い。それ以外は各兵士達はそれぞれの任務を理解している様だった。先週金曜日の管理中隊に指摘したところは改善されていた。

 

火曜日、今日は最終日で第2中隊だった。この中隊は下士官達がしっかりしているので上手くやるだろう事はわかっていた。僕が演習場に着くと既に完璧な砂盤(完璧と言ってもここの軍にしてはという意味)が出来上がっており、基地のシケイン、車両のチェックをする場所、人のチェックをする場所など出来上がっていた。以前の訓練通りだった。8時半に状況説明が始まった。集まったのは小隊長と次席下士官だけだ。中隊長役の中尉は以前の射撃の時の働きを見て知っていた。各小隊長達はノートとペンを持って集まる。この時、初めてノートとペンを見る。各自それぞれの任務を書き込んでいる。そうでなくちゃ!

細かい指示などをしっかり伝えている。下士官が3人ほど小隊長役をしている。中尉が一人副官役、もう一人は小隊長。その後に中尉が「各小隊、命令を出せ!」と解散させた。小隊長達は自分の小隊を集めて命令を出している。こうでなくちゃいけない。

人員配置などが終わったところで状況開始となった。毎日違うシナリオをやるので中隊長役の中尉は気を緩める時間が無い。しかし「週番伍長」では無いので歩き回る必要はない。用事はあれば無線で呼べばいいし来させればいいのだ。シナリオの中の「迫撃砲による攻撃」だけは一緒だった。今回は一番最初にVBIEDがゲートのところでチェック中に爆発したというシナリオも入っていた。爆発した後が大変だった。死人怪我人多数が出た。緊急搬送用のメッセージ、IED用のメッセージをすぐに送らなければならない。中隊長は状況把握しなければならない。しかしこの中尉はメッセージは副官に任せて自分は状況把握に専念するというウルトラC的なことをやってのけたのだ!これには驚いて、本来口をきいてはいけない僕はそれでも褒め言葉が口から出た。3日目なので悪い点は少ないのはわかっていたけれど、中隊長が不在の時は中尉達が代わりを果たさなければならない。この第2中隊はそれが出来ている様だった。そのほか、基地外へのパトロールや良い点が多かった。下士官達の指示の出し方も問題無く行われていて、中隊内の無線交信も上手く出来ていた。3日目、最後の中隊だったけれど、何か「いい物を見た」感じがしていい日だった。

 

水曜日は各階級からの今回の訓練についての要望や良かった点、悪かった点についての話を聞く日だった。だがとにかく退屈で、司会役のシェリフの話し方が眠気を誘う話し方で非常に眠かった・・・。

木曜日はイスラムの祝日だということで休日日程になった。週の真ん中の休日は有難い。金曜日は訓練終了のセレモニーだ。アメリカ大使、この国の国防大臣、軍の最高司令官とか偉い人がたくさん来るらしい。その前に一休みだ・・・。

 

 

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