アフリカ中西部日記 8

二人目の「マラリア患者」が出た。工兵に関する事を教えているイギリス人のトニーだ。その昔僕と彼は同じ連隊にいた。中隊が違ったので殆ど面識はないけれど、共通の上官や仲間がいるので話が合った。朝食の時にトニーは仕事用のシャツを着て来たけれど、誰の目にも明らかな様に調子が悪そうで、ルイジやジェフにホテルにいろと言われていた。トニーがする授業は工兵に関する任務などや使用する用具の説明などだった。そこですかさずダヴィッドが「KAWA」がやるからトニーは今日は休んでいろという事になって急遽僕がトニーの代わりをする事になった。僕は、士官学校を出たばかりの中尉が工兵の小隊長の資格を取る上で習うことと同じ教育を受けていた。なので問題は何も無い。

射撃に関する授業はカールとマイクがいるので僕が抜けても大丈夫だろう。

 

教室に着いた。教えるのはこの大隊の工兵小隊の兵士たちだ。まず最初に「歩兵部隊の連中は勘違いをしている。工兵が来ると待ってましたとばかりにさっさと土嚢を作れだの穴を掘れだの言うけれど、それらは歩兵の仕事だ!僕ら工兵はそれらのアドバイスをするためにいる。間違えるなよ!」と説明した。土嚢の積み上げ方は教えるけれど、土嚢に土を詰めるのは歩兵の仕事だ。自分の防御陣地は自分たちで作れと言うことだ。工兵は人夫では無い。

彼らに初めてそう言う事を言う人物は僕が初めてだった様で、皆驚いていた。一人の軍曹など「上の人間もそう思っているはずだから、僕らが言っても歩兵は耳をかさないのでは???」と終始疑いを持っている様ではあったが、僕が「大隊長にちゃんと言っておくから安心しろ!」と言って納得させた。実際その日授業が終わって事務所に帰る時に偶然大隊長の大佐と副大隊長の少佐が一緒にいるところに出くわした。僕は今日の授業内容を説明した後に付け加えた。「歩兵部隊の連中は勘違いをしている。工兵が来ると待ってましたとばかりにさっさと土嚢を作れだの穴を掘れだの言うけれど、それらは歩兵の仕事です。僕ら工兵はそれらのアドバイスをするためにいる。それを大隊に徹底させてください!」と伝えた。大佐も少佐も最初はびっくりしていたけれど、僕は工兵部隊出身だと言うと納得が行った様で、「わかった!問題ない。徹底させるよ!」と約束してくれた。

工兵の仕事について少し説明しよう。通常の工兵(戦闘工兵)の任務は主に2つある。Appui à la mobilité(進撃援助)とcontre mobilité(進撃阻止)に分かれる。進撃援助はオフェンスの時、進撃阻止はディフェンスの時だ。進撃援助の時は、敵の道路妨害の除去、塹壕があれば埋め直したり、敵の地雷原の地雷除去などを行い、自軍の進撃を援助する。進撃阻止は逆に、敵が通りそうな所に障害物を設置したり塹壕を掘って敵戦車やその他の車両が通る事が出来ない様にする。時には道路の並木道のような所では爆薬を使い木を倒したりする。除去が面倒になるように敵側に向けて倒す。この時、木が完全に爆薬で「切れて」しまわないよう爆薬の量を計算して調整し、倒れるだけにする。敵は木を「切る」作業が余計に必要で、ただ単に木を移動させるのとは違い時間がかかるわけだ。

そのほかに土木作業の工兵連隊もある。ブルドーザーやバケット・ローダー、グレーダーなど重機をたくさん持っている。基地建設やいろいろな整地に活躍する。また、ライン川付近にいる工兵は、「Pontage」(架橋)の連隊もある。この連隊は渡河作戦専門の連隊で自走の浮橋などで大きな川があっても味方の進撃を助ける。「工兵」が作業中は「歩兵」部隊が我々工兵のための防御に就く。歩兵部隊の守りがなければ作業は行われない。工兵は後方部隊と思われがちだが常に歩兵と行動を共にする。前線部隊なのだ!騎兵連隊とも連携する。これが主な工兵の役割だ。

そのほか「FOB」(Foward Operating Base;前方作戦基地)などの作り方などを説明した。四角形または長方形が理想型で、機関銃の配置などを図を使って教えた。

また、入り口に必ずシケイン(ジグザグ)を設けて、最初の一つ目と二つ目はコンクリートを流し込んで強固にする方が良いなどを教えた。VBIED(車爆弾)に対抗するためだ。VBIEDさえ防ぐ事が出来れば被害は少なくて済む。

また、機関銃座や監視塔は、必ず背後には布なり壁、土嚢を積んで、監視者のシルエットを隠さなければならない。さもないと敵の狙撃を受けてしまうからだ。また、銃座や監視塔の前方の山や川、道の方角に印をつけておけば夜間でも迷う事がなく、監視や射撃に都合がいいなどを教えた。

 

 

今朝の朝食はいつもならメロンやバナナ、パイナップルなど新鮮な果物が出てくるのだけれど、今日は注文し忘れたと言う事で缶詰のパイナップルであった。美味しくなかったのでちょっと後味の悪い朝食であった・・・。

 

夕方ホテルに着いて部屋へ戻りすぐにシャワーを浴びると大体17時過ぎぐらいになる。冷蔵庫で冷やしてあるビールを何本か持ってカールの部屋へ向かう。ルイジが既に来ていることは知っているから、飯前の一杯が始まる。その日あったことなど簡単に話して2本目のビールを開ける頃になると、カールとのゲームが始まる。彼はGoogleか何かで昔のグループの音楽をかけて、僕とルイジはそれが誰で、曲名や何時頃流行ったやつかを当てる。何時頃かそんなゲームをやるようになってなかなかの暇つぶしになった。

その時だった!「会いたかった♫ 会いたかった♫ 会いたかった♫ yes!君に〜!」と言うのが聞こえたのだ!マジか!大笑いして「カール、どうやって見つけたんだ???」と問いただしたけれど、カールはニヤニヤしているだけであった・・・。

 

来週から歩兵の「パトロール」を教える事になった。俺は「歩兵じゃないぞ!」とダヴィッドに言ったけれど、「外人部隊の曹長なら大丈夫だろ!」の一点張りで、確かに少し記憶の中を探したらなんとなくではあるが思い出さない事はなかったけれど・・・。まぁ後はやるしかないか・・・。

 

 

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