アフリカ中西部日記 3 日常生活

アフリカ中西部日記 3 日常生活

 

今週いっぱいは全員隔離のため仕事がない。ダヴィッドから仕事の細かい説明があった。今回ダヴィッドは、シニア・トレーナーと言うインストラクターの親分の立場だった。顔の知らないフランス語が出来ないやつよりは、元外人部隊の曹長でよく知っている「KAWA」の方がいい!とジェフに進言したのはダヴィッドであった。「外人部隊で、おまけに曹長だぞ?彼は何でも出来るんだ!」と変な風に僕を推したのだった・・・。

それに、前回の「西アフリカ」で僕は装甲車の操縦士の訓練をうまくやったので、ジェフの覚えが良かった。なので今回も装甲車の操縦士の訓練をやる事になった。それから、車列行動も教える事になった。攻撃を受けたときの車列の各車両の動き方を教える。僕と一緒に仕事をするのは、カナダ人のカールだった。カールは「狙撃」専門で、僕と同じく専門外のことを教えるのだけれど、ここで教えるのは基本と実践なので、何とか行けそうだ。

カールは130キロの巨漢で(悪い言い方をすれば「デブ!」)ワインが好きで英語とフランス語が堪能なケベック出身であった。隔離期間中はほぼ毎晩ルイジの部屋で酒盛りであった。肘がおかしいと気づいたのはこの頃であった。

 

今週から仕事開始。隔離などとは言っていられないのだ!朝は4時15分に起床。起床時間は決まっていないけれど、朝はゆっくりしたいので早く起きる。早起きは苦にならない。トイレ、洗面などを済ませてメールをチェックしたり、余裕を持って5時過ぎに朝食に向かう。朝食のために食堂(ホテルのレストラン)に着くと、最近「NN部隊」と呼ぶ様になった野良猫の出迎えを受ける。この時は僕を睨んでいるだけだ。

すでにベーコンやオムレツ、パンやフルーツ、コーヒーやフルーツ・ジュースは準備されている。僕は皿を取り、ベーコン、オムレツ、フランスパンを取る。その後、コーヒーをポットから入れる。ジュースはピッチャーから。フランスパンを切ってサンドイッチが作れる様にする。オムレツを挟みやすく切り、そこにベーコンを入れる。挟み終えたら手で圧力をかけて少し潰して食べやすくして準備完了。食べ終わったら今度はフルーツだ。僕の好きな新鮮な「パイナップル」を数切れ。腹持ちがいいバナナを1本。最後にコーヒーカップを持ってすぐそばの扉から出てタバコを吸う。

 

朝食時に毎日「検温」と「血中の酸素飽和度」を測るのが決められていた。体温はわかるがなぜ「血中の酸素飽和度」???検温機はハンドルに小型の液晶画面がついている今流行りのやつだ。毎回誰かに測ってもらっている様だった。僕の時は僕一人だったので、僕はそのハンドル型を手に持って自分の額に向けて検温した。その時食堂ではほぼ全員が食事中であった。ピストルを自分の頭に向けて撃つ様に映ったのだった。すかさずルイジが「お前、自殺でもするのか???」一斉に笑いが起きたのだった。しかしその日以来「自殺者」が増えたのは言うまでもない。たかが検温で2人も必要はない。

朝食が終わると6時に食堂のすぐ脇のソファーがあるスペースでブリーフィングがあり、その日の注意点などについてジェフから話がある。トレーニングについて何かあればダヴィッドからも話があるし、アドミのルイジからも何かあると説明なりがある。それが終わると、ボディー・アーマーをつけて一般車両に乗り込む。6時15分、出発だ。SUV1台、ミニバス1台で、ホテルから40分ほどのところにある憲兵隊の検問所まで行くのだ。まだ外は暗い。

検問所へ着くと、僕らを訓練基地へ運ぶ「装甲車」が2台と、護衛のための武装した兵士の乗るピックアップが2台が待っている。

僕らは急いで走行車に乗り込む。途中デコボコでも怪我をしない様にヘルメットを着用してハーネスを締める。場合によっては水や必要なものをミニバスやSUVから下ろして装甲車へ積み替える。全員乗り込んだら「close」のボタンを押して装甲車の自動扉を閉めて出発だ!訓練基地まで1時間半ぐらいだ。僕は膝が悪いので最初はこの装甲車の高いスッテップに苦労させられた。けれども3日もすると、痛いながらもどうにか上り下りできる様になった。

訓練基地に着くと事務所に行って、デカい冷凍庫から凍った水のボトルを2本ほどバックパックへいれてその日の訓練のために僕らのハンガー兼「教室」へ向かう。今さっき乗ってきた装甲車も訓練で使う。護衛のピックアップもだ。装甲車の乗り降りは勘弁だ!ロシア製PKM機関銃を外したトヨタのピックアップに乗り込んで教室へ向かう。

教室へ着いたらまず挨拶をして一人一人の顔を覗き込む。それは今は毎朝の恒例行事になっていた。変な仕草をすると「KAWA」に「ここがお前の定位置だ!」と全員の前へ呼び出されて「今日の演説をしろ!」と命令されるからだ。みんなの前で演説するのは恥ずかしいらしく、いつ「KAWA」呼ばれるかみんなビクビクしているのだった。演説の前には一人一人の目を見て注目を集める様に教えたのだけれど、どうやらそれが恥ずかしいらしい。みんなに笑われるからだ。それに、小声の場合もだ。「KAWA」みたいに大声で話せ!と言うとどっと笑いが起きるのだった。なので呼び出された兵士は緊張のあまり余計言葉がおかしくなったり小声になるのだった。

それからあとにカールが今日の訓練の説明を簡単に始めて、2人いる上級曹長に指揮権を渡す。

生徒の兵士たちが車両の始動前点検をし、こうして「装甲車」の運転訓練が始まる。13時まで休憩は入るが昼飯抜きで仕事をする。なので朝飯は非常に大事であった。毎回昼飯抜きで13時とか14時まで仕事をするのは知っているから朝はしっかり食べる。昼食の時間を入れると時間の無駄が出るからだ。それに生徒たちも早く訓練を終えたい。なので僕らはそれに合わせるのだ。

 

この訓練は非常に大切だった。ある西アフリカの国では長い間紛争があり、アフリカ連合の各国は国連指揮下の平和維持のために軍を送っている。だが、彼らの訓練は十分ではない。だから僕らのいる会社=元軍人が集まっている会社が必要なのだ。彼らアフリカ連合の軍を送り出しても、訓練が行き届いていなければムダにボコボコ死ぬだけだ。新しい装備や車両の使い方、新しい戦闘技術、作戦の立て方、効果的な射撃の仕方など、訓練が必要なのだ。そのため、僕らが教える事は多岐に渡る。上は高級士官から下士官、下は一般兵士まで。

 

僕の事を「傭兵」と思っている人がいるかもしれない。僕は兵士として雇われたことは一度もない。なので戦場に行った事はあるけれども戦場で一度も銃を撃った事は無い。撃たれまくった事はあるけれども・・・。僕が雇われているのは「スペシャリスト」だからだ。自分の専門以外の事も出来る。だから雇われているのだ。僕の様な元軍人は資格と経験が豊富だから雇われる。某国外人部隊出身というだけではダメだ。資格と経験がないと使い物にはならない。伍長ぐらいでは教えるものを持っていないからだ。今回の仕事の同僚には女性もいる。米海兵隊の元士官だ。彼女は今いる国の軍の指揮官たちへ講義を行っている。この様な人間の集まりが僕が今いる会社の実態だ。そして僕らは、数ヶ月後に「西アフリカ某国」の紛争地へ派遣される1個大隊全員を各分野ごとに分かれて訓練しているのだ。僕の専門のEODに関していうと、次の授業の「車列」の授業に「C -IED」に関係する分野があるからだ。装甲車の運転の仕方も教える。それに加えて「C -IED」に関係する事も教える。だから呼ばれたのだ。僕は教えた生徒たちに怪我をして欲しくないし、ましてや展開した先の別の国で死んで欲しくない。

なので、教えるのに真剣だ。生徒たちも真面目に聞いてくれる。前々回の仕事で一緒になった米軍のEODの少尉に聞かれたことがある。「そういう授業の仕方のテクニックはどこか専門の学校で覚えたのか?」という質問だった。僕はたった一言「外人部隊で覚えた!」とだけ答えた。部隊にいた時だけれども、軍曹の時に1年間新兵訓練担当軍曹をしたことがある。フランス語がまだ話せない新兵に軍隊はどういうところで何をするか?を教えたのだ。その経験が今でも役に立っている。もちろん軍曹訓練コースで授業の仕方を学んだ事もある。だから授業をする事は苦手では無いし進め方も知っている。アフリカ各国での経験もある。普段アフリカ人は現地語で会話をする。けれども、オフィシャルの言語はフランス語だったり英語だったりする。どこの国の植民地だったかによる。僕は主にフランス語圏の仕事の時呼ばれることが多い。そういう国ではフランス軍の教範を使っているので、僕にとっては教えるのに好都合な場合がほとんどだった。なので今回もまだ始まったばかりだけれど、非常に授業を進めやすい。

授業の最後には上級曹長が生徒全員に「気を付け!」をかけて僕に向かって敬礼をする。僕は軍帽ではなく普通のキャップをかぶっているけれど、フランス式に敬礼をして「ありがとう、上級曹長!」と言って授業を終えるのがいつもだった。なぜカールではなく僕なのかはわからないけれど・・・。

 

それからオフィスに戻ってデブリーフィングを簡単に行う。各分野ごと、今日の授業はどうだったとか問題はなかったかなどをジェフに報告する。それが終わるとだいたい14時過ぎ。それからホテルへ戻る支度に入る。また装甲車で1時間半ぐらい。さすがにその最中はウトウトしてしまう。装甲車の中でも寝られるのはみんな経験者だからだ。僕は今乗っている「ピューマ」という装甲車の旧型である「カスピーア」の経験が東アフリカであった。ピューマと違ってエアコンは壊れているし足回りもガタガタ。そんな中でも眠ることが出来た。

憲兵隊の検問所にはホテルまでのSUVとミニバスが待っている。それらに乗り換えてやっとホテルの到着するのは16時過ぎ、17時近くになっていた事が多かった。それが今週だった。来週も同じ道程を繰り返す。なのでこの国での任務はみんなに嫌われていた。でも仕方がない。会社が請け負った仕事だ・・・。

夜はなぜか18時ぐらいになると3、4人が一人ずつルイジの部屋のドアを叩く。ルイジはアドミだけれど、デカい冷蔵庫があり、いつも何本かのビールが冷えているのだからだった。そうやって仕事が終わってビールを飲みながら今日あった事や明日からの仕事のことを話すのが常だった。もちろんくだらない話が多いけれど。最近はボスのジェフも顔を出す様になった。うちらの話の方が他の連中より面白いからだった。皆結構酒を飲むという事が分かったらしく、なぜみんなルイジの部屋に集まるか理解した様だった。僕は一人の時はあまりワインは飲まないけれど、どういうわけか、買い物に行くスーパーにはワインが豊富で、ルイジの部屋には何本ものワインが隠している訳ではなく置いてあった。カールもワインを持ってくる。海兵隊出身のクリスティーもワインを持ってくる。冷蔵庫に各自買って来たビールが冷えている。こうして酒盛りになるのであった・・・。同僚のクーンの話だと、昨夜はワイン7本が空になったそうだ。僕はビール3本飲んでワインをグラス1杯飲んで部屋に戻ったけれど・・・。

 

読んでくれた人、ありがとう