アフリカ中西部日記 4 授業

2週目が始まった。生徒の兵士はやっと「装甲車」の運転に慣れてきた様だ。だが何人かは1速から2速へうまくギア・チェンジが出来ずに甲高いモーターの音を響かせているのだった・・・。最初のうちは特に気にせず「装甲車」の経験者にも運転させていたのだけれど、上の方から「大型免許所持者のみ!」とのお達しがあり面倒くさいことになった。フランス軍の場合は車両ごとに免許がある。普通車、大型、特大、その他各装甲車やバケット・ローダー、特に僕のいた工兵連隊はとにかく免許の数が多い。だがこのアフリカ中西部の国の軍隊ではその辺はあまり重要では無いようだ。普通車、大型と、2種類しか免許がない。普通車の免許で「ピューマ」より少し小ぶりの装甲車「マンバ」を運転させたりしているのだった。小ぶりと言っても10トン以上ある。運転手が足りないためだった。そのほかにフランス製の「VAB」とか数種類の装甲車を持っているらしかった。「普通車の免許」でこれらの装甲車を運転した事がある兵士がたくさんいた。おまけにそれらで実際に戦闘に参加したと言う兵士も何人かいた。けれども、今回彼らが派遣される西アフリカの国は「国連平和維持軍」の一員として参加するのだった。もし何か「事故」があると、国連から「運転手は誰だ?」とか、「彼の持っている免許は?」などと調査が入る。その時、「普通車の免許」で「ピューマ」などのデカい装甲車を運転していて事故を起こしたとなると、軍だけの問題ではなくなる。なので途中から「大型免許」所持者だけにピューマの訓練をした。「普通車免許」の連中はトヨタの「ピックアップ」の運転をさせた。

運転の他に車両への指示の仕方も教えた。どこにどう言う風に停めさせるかなどだ。フランス語圏の国ではほぼ例外なくフランス軍の教範を使っている。その中に車両への指示の出し方が載っているので、それを教えた。もちろん今いる国の独特のやり方はそのまま使って良いけれども、仲間内だけだと念を押した。国連のミッションなので、他の国の軍と任務を行う時があるかもしれない。そう言う時に、軍の教範に載っているやり方を覚えておくと共通の指示の出し方で問題が減るはずだ。何しろアフリカ連合の国の軍隊はその辺の注意を全くしない兵士がほとんどなので、気をつけて指示を出せる様にするのも重要だった。上部に付いている機関銃座を木にぶつけたり、後部の乗降用のランプを後ろの車両にぶつけて使い物にならなくしたりはしょっちゅうなのだ。

 

その他に車列(コンボイ)を組んだ時に移動中攻撃を受けた場合の行動についての授業も始まった。その中には僕の専門のC-IED(カウンター・IED)の授業も入っていた。どうやってIEDを発見するか、発見した時にはどう言う行動をとらなければならないかなどだった。

毎朝訓練が始まる前には座っている兵士一人ひとりの顔、目を見て回る。そうやって兵士達の状態を見るのは大切だった。そうする事によって兵士たちも僕の目を見る様になる。そうすれば彼らの注意を引く事ができる。「KAWA」は僕らのことをちゃんと見てくれていると言う事が大切だ。

 

木曜日、僕の授業の日が来た。いつもの様に教室を一周しながら全員の目を見る。その後に2人の上級曹長と1人の曹長と挨拶をした。それが済むと僕はいつもの定位置に行った。気をつけの姿勢をとって、そして敬礼をして・・・

いきなり大声で「気をつけ!」をかけたのだ!みんなビックリして動作が遅れたので、一旦「休め!」をかけてすぐにもう一度大声で「気をつけ!」をかけた。「今日は僕と一緒にIEDについて学ぶ。それからIEDを発見したときの行動を学ぶ!」と本日の授業内容を説明して、やっと「休め!座れ!」と号令をかけてみんな座り始めた。何人かはまだビックリしていて僕を凝視している。一体何事が起きたんだ???いつもの冗談を言ったりする「KAWA」じゃないぞ!とみんな分かった所で授業に入る。これは外人部隊のやり方で、屋外の時は太陽の位置も計算して並ばせる。生徒は太陽を背にして並ぶ。眩しくてホワイト・ボードが見難かったりしない様にするためだ。僕は生徒の顔を見ながら話すので太陽は気にならない。そう言う事は下士官の訓練コースで習う。まずみんなが知っているだろう事を質問する事から授業は始まる。それが終わると本日の授業内容に入ってゆくのだ。そうする事で授業にスムーズに入ってゆく事が出来る。なるべく簡単な単語を使う。生徒の兵士は普段現地語でコミュニケーションをとっていて、フランス語が苦手な兵士が多いのだ。それと僕は「デッサン(絵)」を多用する。PowerPointは今回は使えないので、ペーパー・ボードに必要なことは手書きで授業内容を書いた。見やすい様になるべくデカい字で書いたし、図も見やすい様に大きく描いた。僕はジェスチャーも大きい。それに、必要ならば、何人かの生徒を前に呼び出して説明に使った。ボスのジェフはこの僕のやり方が気に入っていて、いつも訓練終了後はディブリーフィングを行うのだけれど、その時にこの僕の授業のやり方は、生徒の兵士の注意をうまく引くし、兵士が参加しながらうまく内容を説明しているので見習う様にとみんなの前で説明した。要するに褒められた。ジェフと仕事するのは今回で3回目だ。たまにやってきては僕の授業を見ている。僕は自分の授業に自信を持っているし、僕がよく知っている事を生徒の兵士に教えるので全く支障はない。以前と同じ様に授業を行なっていた。別に変わったところがなかったので、いきなりみんなの前でそんな事をジェフは言い出したので、僕の方がビックリしたほどだった。

 

この日の僕の授業中、ジェフが見にきていたのは全く気付かなかったし、軍の副大隊長も来ていたのに僕は全く気付かなかった・・・。授業に集中していたのだ。車両の側で説明している時に、チーフインストラクターのダヴィッドがいて後ろで笑っていたのは見つけたけれど・・・。授業中には笑いも必要なので、冗談も交える。一人の軍曹を捕まえた。彼は四六時中冗談を言っているのは知っていた。彼に、今日学んだ事を車両を使って実践させた。軍曹は、「3時の方向、以上なし!」僕は聞こえない振りをして「ん?何だって???」と言う。ドッと笑いが起こった。軍曹はさらに大きな声を出して前のめりになり、つんのめって倒れるかと思った。「3時の方向、以上なし!!」。僕は今度は「了解!」と言って続けさせる。大事なことはそうやって繰り返させる事が多かった。やった本人もそうだが、それを見ている兵士達も理解する。

それがダヴィッドに受けたらしかった。生徒にも笑いは必要だ。みんな笑う。だけれど、僕の声の方がデカイので、すぐみんな真面目になる。授業ではメリハリが必要だ。そうやって僕の授業は進んでゆく。

 

一通り終わって教室に戻る。今日やった事を最初から質問する。生徒の兵士達はきちんと答えるので、どうやら理解はした様だ。どうやら今回の授業もうまく行った様だ。ふ〜・・・。

 

金曜日は同僚のクーンが授業を行なった。いまいちリズムが悪いと感じたけれど、これが彼のスタイルなのだろう。僕が決して完璧なのかどうかは知らないので、何も言わなかった。おまけに彼の授業は僕の専門外だし・・・。

 

授業が終わって、デブのカールが記念写真用に装甲車を並べてみんなその前に集まった。人数が多いので真ん中辺にあつめた。カールの合図で2、3枚写真をとった。「教室へ戻れ!」と言った途端、兵士たちから「KAWA!一緒に写真を撮らせてくれ!」と何人もの兵士達に囲まれて揉みくちゃ状態になったのだった!僕はアイドルでも映画スターでもないぞ!いつも僕に睨まれるのを嫌がっているのに!そんなこんなで20人ぐらいと写真を撮った。

 

帰りの装甲車ではウトウトとするのがいつもだったけれど、ウォークマンで日本の曲を聴いていると、2時間の道のりが短く感じたのであった・・・。憲兵隊の検問所についた。ここからはミニバスに乗り換えてホテルに向かう。最近運転手も道に慣れたのか20分ちょっとでホテルに着く様になった。ミニバスが走り出して15分もすると、やっと3G回線に繋がるのだった。その時になってやっとメールやSNSが使える様になる。今日も終わりだと気づく時であった・・・。

 

読んでくれた人、ありがとう