アフリカ中西部日記 5

月曜日になった。いつもどおり4時15分に起きてトイレ、洗面などを済ませて着替える。5時少しに、バックパック、ヘルメット、ボディーアーマーを持って食堂に向かう。大体僕が一番最初で、馴染みの料理人と挨拶する。僕の次はいつも決まって元海兵隊女性士官だったクリスティーがやってくる。そのあとはあの鬱陶しい「奴」がやってくるのだ。けれどその日はまだやってこなくて、珍しくジェフとダヴィッドが早めにやってきたのだった。そしてその「奴」はやって来た。そいつはイギリス人のサイモンと言って、英国士官学校のサンドハースト出身で、大佐か中佐だったらしい。僕には関係ないのだが。ただその「奴」はとにかく文句ばかり言う奴で常に「unhappy」なのだが、問題はこのサイモンは声がでかい。おまけにお喋りだった。レストランに入ってくるなり誰彼構わずでかい声で自分の不満をぶちまけるのだ。自室のシャワーの調子が悪いとか、夜にどこからかうるさい音楽が流れて来たとか、インターネットの接続が悪いだとかとにかくうるさくて鬱陶しい奴だった。フランス語もそこそこ話す。

僕はそれが毎日でイラついていたので、「サイモン!黙れ!朝の5時にお前はうるさいんだよ!」とフランス語で怒鳴ってやった。ボスのジェフは聞こえないふりをしていた様だが、ダヴィッドが笑い出した。外人部隊兵そのままの言い回しだったからだ。「外人部隊兵の辞書には社交的な言葉は載っていないんだよ、ジェフ。」と説明しているのが聞こえた。思わずジェフも笑い出した。

外人部隊にいた時には英国(英国、スコットランド、アイルランド、ウェールズなど)の知り合いがたくさんいるけれど、こんなうるさい奴はいなかったし、いつ口を開いたらいいか皆わかっていた。こいつは食堂だけにとどまらず、ミニバスの中でも憲兵隊のチェックポイントにいる装甲車が待っている所まで話し続けている時もあるのだった。とにかくうるさい。僕の前の列の席で、何度奴の頭を「ペシッ」と引っ叩こうかと思った。幸い装甲車の中は、モーターの音の方がうるさいので助かっているけれども。こいつのせいで、サンドハースト士官学校の評価はガタ落ちだ。

出発前にいつもミーティングがあるのだけれど、その前にサイモンは僕のところにやって来てさっきはすまなかったと言って「聞いてくれ!面白いイギリスのユーモアの効いた話があるんだ!」と言って来た。少し離れた所に座っていたダヴィッドがこっちを凝視している。僕は「それが鬱陶しいんだよ、サイモン!お前がいつもアンハッピーなのは全員知っている。朝の5時からお前の文句なんか誰も聞きたくないんだよ!」と言ってやった。ダヴィッドが「ククククッ」と笑っているのが聞こえた。サイモンはそれ以上何も言えずに離れていった。

 

その日は普通に食欲もあった。検温をしたら37度5分。ちょっと高いぞ???みんなサイモンのせいだ!と茶化したが、ルイジが来てもう一度僕の頭に検温機を当てた。38度の表示が出た。ジェフがやって来て「KAWA、咳はないか???調子はどうだ???」と聞いて来る。僕はその時は特に何ともなかったのでそう答えた。通常どおり朝のミーテイングを終えていつも通り出発した。今朝の一発目は僕の授業だった。僕が書いたペーパーボードが見つからない。仕方がないので、ただのホワイトボードに直接書こうと決めて教室?へ向かった。

教室に着いて、キャップを脱いで流行りの?「ツーブロック」の髪型をみんなに披露した。金曜日に「週末にはお前らの様な兵隊カットにして来るぞ!」とすでに伝えていたのだ。キャップを脱いだ途端拍手喝采が起きた!あちこちで「KAWA!」「KAWA!」と叫んでいる。何でだよ・・・

 

前回同様に僕の「気をつけ!」の号令で授業は始まった。数回休憩を挟んでカールの授業の番だ。この日おかしなことがあった。訓練所に行く時は水を飲んだことがない。特に喉が乾かないからだった。しかしこの日は朝起きてからボトル半分の冷水を飲んでいたし、装甲車の中でも初めて水を飲んだのだった。カールの授業中、ビタミンCの錠剤(舐めて溶かすやつ)を舐めていたけれど、何だかシャキッとしない。頭がボーッとした。カールの授業が休憩になった時にカールにそのことを伝えた。カールは「ちょっと待っていろ!」と言うと、運転手を見つけて来て「こいつが事務所まで乗せていくから先に戻っていいぞ!」と言ってくれたのでその通りにした。

事務所に着くとジェフとダヴィッドがいたので「やっぱりなんか調子が悪い。」と言うことを伝えた。とりあえず砂糖を沢山入れたコーヒーを飲んだ。眼の焦点が回っている。熱がある様だ。椅子に座ってみんなが戻って来るのを待った。それから帰りの車両に乗り込むまでがひどく長く感じた。

帰りの車両でのことはあまり覚えていない。すでに発熱していたからだ。コロナか???と心配になったことは確かだけれど、朝にダヴィッドが「咳もないし、マラリアかデング熱の可能性の方が高いな!」と言っていたので、そのどちらかだろうと思っていた。今までアフリカ14か国周ったけれど、こんな事は2007年以来だ。2007年の時は、知り合いがいて彼のおかげですぐクリニックへ行き解熱剤の点滴を一晩受けて何とかなったのでマラリアというのは頭になかった。今考えると、今いる国は現時点で雨季なので、「蚊」が沢山いる。マラリアにいつなってもおかしくないのだ。

ホテルに着いて急いでシャワーを浴びてすぐベッドに入った。頭痛がしていたので、解熱・鎮痛薬を飲んだ。少ししてダヴィッドがやって来て僕の体温を測って取り敢えず明日38度まで行く様なら血液検査して原因を突き止めよう。この症状はマラリアくさいな。と言った。僕はとにかく寝るよ!と言って横になった。

 

翌朝いつも通り起きたらまだ軽い頭痛があった。ダヴィッドに連絡したけれど、つながらず。仕方がないのでルイジに連絡した。「今日は僕の授業がないから休んでいいか???」と聞いたら、「もちろんだ!ホテルで休んでろよ!」と言われた。しばらくしてダヴィッドから連絡がきた。「シャワー中で呼び出し音が聞こえたけれど出られなかったんだよ。もしかして俺が携帯持ったままシャワーを浴びていると思ったか???」というので、「もちろんだ!部隊兵ならそうだろ!」と冗談を交わして本題に入った。ダヴィッドも今日は寝ていろと言ってくれたのでその日はホテルで寝ている事にした。

 

夕方になりみんな戻って来た。ダヴィッドがすぐにやって来た。僕の体温を図る。38度に近かった。だがこれはまだ始まりだった。翌々日の夜中には40度を超える様になる。翌朝血液検査へ向かった。指先を「チクリ!」とやるやつだ。1時間ほどで検査の結果が出た。マラリア陽性だった!マラリアクラブへようこそ!

 

こうしてマラリアクラブの一員になったのであった・・・。

 

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