番外編 西アフリカ某国の日記 3

2020年2月5日

昨日はパトロール番で、朝からジャンと以前に行った廃鉱のそばの警備員の様子を見に行って来た。今朝の運転は僕だ。ここへ来てからハンドルを握るのは2度目だ。トヨタのハイラックスはアフリカ各国で使われているので運転は何度もした事があるし別に戸惑わなかった。でも、アフリカの「ラテライト」の道は、いつどこに穴ぼこがあるかわからないのですんなりとは行かない。ただ、鉱山の会社はトラックを沢山走らせているし、トヨタハイラックスが僕らの他にも数十台走っているので、毎日グレーダーがどこかしらの道を平らになる様に作業しているお陰でそれなりのスピードで走る事が出来た。中央アフリカやベナンなどの手入れされていない「ラテライト」の道に比べたらここの道は高速道路であった。

警備員に様子を聞いて異常がない事を確認した。Uターンして帰ろうとしたけれど、ジャンが「こっちの道は通る事が出来るか?」と警備員に聞いていた。警備員は大丈夫だと言ったので、ジャンは「この道は使った事がないからこっちの道から戻ろう」と言ったのでそちらにハンドルを切った。ある程度進むと車用の道は無くなってこの国での主な交通手段である「バイク」の通り道になった。凸凹で、場合によってはギアを1速に入れて慎重に進まなければならなかった。

ジャンはこの道を使った事がなくて「Kawaと一緒に出ると何かしらあるな!いい景色じゃないか!」などと冗談を飛ばして結構喜んでいたけれど、僕は凸凹のおかげで景色を見ている暇など無く久々のアフリカでの運転だった事もあって汗だくだった。

開けた所に出ると遠くの方からトラクターがやって来たので、それをやり過ごしてからトラクターが進んで行った方に進んだ。そしてしばらく走ると車用の道に出た。

さらに進むとフェンスに突き当たり、廃鉱の外周だという事が分かった。ここまでくれば安心だ。外周道路を走り表ゲートに着いた。そこの警備員も現地の民間人の警備会社なのだけれど、僕らに向かって気を付けの姿勢で大袈裟に敬礼するので、ジャンと二人で「よせよせ!俺らは将軍でもないし敬礼なんて必要ない!」と説明して同時に気を付けもやめさせた。

いったん「工場」と呼ばれるメインサイトの事務所に戻ってそれから新しく作る予定のチェックポイントの道幅などを測りに出た。

僕に言わせるとここでの一番の脅威はVBIEDと呼ぶ数百キロの爆薬を積んだテロリスト自身が運転する自爆用の車の攻撃だった。1台目の自爆用車両でゲートを爆破する。2台目には銃を持ったテロリストが1台目の自爆車両の爆破によって無力化されたゲートから入り込み無抵抗な人間を殺しに来る。それをゲート前で止めさせるためには「シケイン」が有効なのだけれど、ここで使っている車はハイラックスだけではない。車重100トンの「コマツ」のダンプも通るのであまり小規模の「シケイン」だとこれらのデカいダンプが通る事が出来なくなって作業に支障が出る。なかなか頭の痛い話だった。

もう一つはPBIEDと言って着ている服の下に爆薬を巻きつけて民衆に紛れ込み自爆するテロリストだ。作業員の服装でその下に爆薬帯を巻きつけた奴がゲートで爆破させたら大惨事だ。

僕はソマリアで仕事をしていた時に嫌と言う程IEDの爆発を見ているので危険度や重要さは分かっている。

鉱山などこういう施設ではこのVBIEDとPBIEDには特に注意しなければならないのだ。メインゲートの警備員達には何度も車のチェックの仕方や個人のチェックの仕方を教えるのだけれど全然教えた通りに出来ないのだった。爆発が起きて怪我人や死者が出ないとわからないのだろうか?

 

終わってキャンプに帰ったのは丁度昼飯前だった。

 

午後一のパトロールはメインの「工場」と呼ばれるサイトから僕とジャンがほぼ毎日防御用ポストを作るために行っているトヨタで飛ばして20分ほどの別なサイトに僕ら警備スーパーバイザーのリーダーで元第2外人歩兵連隊出身のポーランド人のマグが現地の共和国保安機動隊の視察をすると言うので僕とジャン3人で出発した。

半分以上進んだあたりでトラックの後ろの土埃に隠れていた民間のステーションワゴンがものすごい勢いで「工場」に向かって走っていく!マグが運転していたジャンに「Uターンしてあの車を止めなきゃダメだ!」と怒鳴った。ジャンは急ブレーキをかけて止まると急いでトヨタをUターンさせてそのステーションワゴンを追った。僕は後ろの席にいたので良くは見えなかったのだけれど、ジャンがスピードを上げ始めてステーションワゴンに追いついた。その時であった。ステーションワゴンは僕らが追っていると見るといきなりスピードを上げたのだ!ジャンはさらにトヨタのアクセルを踏み込む。どうにかステーションワゴンに並んでクラクションを鳴らすのだがスピードを落とさない。マグはポーランド語で悪態を吐くと徐に拳銃を抜いた。そしてステーションワゴンに向けた。銃を水平にして。撃つのでは無く、水平にした拳銃を上下に動かしスピードを落とせと合図したのだ。

100メートルぐらい走ってやっとそのステーションワゴンは止まった。ジャンはステーションワゴンの前に斜めに通せんぼをする形でトヨタを止めた。

マグはトヨタから勢いよく降りて運転手に向かって行った。僕は後ろのドアを開けて銃を抜いてマグを援護出来る態勢を取った。

マグは運転手に向かってここは一般人の車が通る場所ではない事を説明している。運転手はひたすら謝っている様だった。後でジャンから聞いたのだが一時はステーションワゴンに追い付くために時速120キロも出したらしい。「高速道路」じゃなかったらひどいことになっていただろう・・・。

それからマグの話によると運転手はマグの銃を見て信じられないくらいの大粒の汗をだらだら流していたそうだ。

ステーションワゴンには助手席には老婆、後ろの席には少年だろうか?3人、計5人乗っていた。ステーションワゴンをUターンさせて「工場」に近づかない様に説明して元来た道を戻る様に促すとそのまま走って行った。僕らはその後ろを1キロぐらい着いて行ったけれど、途中の分かれ道でそのステーションワゴンは集落のある方の道を進んで行ったので、僕らは本来の目的地のサイトに向かった・・・。

 

※安全上国名は明かしません