番外編 西アフリカ某国の日記 8

2020年2月19日

今日のパトロール番は、新入りでロシア人のアルトゥールとだ。外人部隊を除隊してから初めて民間での仕事という事で、まだ民間に慣れていない。ウクライナ人のアレックスとは昔からの知り合いなので、四六時中ロシア語でアレックスに質問している。

7時半までコーヒーを飲んだり雑談をしてからパトロールに出た。他の同僚はこういう海外での仕事に慣れているので自ずと会話も仕事の話になるのだけれど、アルトゥールは何かと自分のことを話したがるので、運転している僕はウンザリしてきた。結婚して家族がいて、子供は3人、上から何歳で・・・。月いくらのクレジットの支払いがあってどうのこうの・・・。そういう個人的な事は僕は殆ど興味が無い。特に友達でも無いし。「仲の良い同僚ならわかるけれど、お前の話はいいよ。」と考えたけれど言わない。それから、仕事のメールについても教えた。自分がいつ体が開くかだけ返信すればいいのに、聞けば自分の考えを長々と返信したりしていたらしい。先方は、「お前がいつから仕事出来るか」を知りたいだけなので、そんなのに延々と自分の考えを返事しても向こうは全く興味が無くてすぐそんなメールはゴミ箱行きになってせっかく可能性のある連中のリストにいながら名前をリストから消されるぞと教えた。

最近はアレックスもアルトゥールの事を鬱陶しく思っているらしく「もう外人部隊にいるわけじゃ無いんだからゆっくり構えて落ち着けよ!」と言っているのだがアルトゥールの方はいまいちピンと来ていないらしく話す事も何だか皆んなと噛み合わない。頭は悪く無いしいい奴なんだけれど・・・。

本来ならば、パトロール番で一緒なので、13時の鉱山技師の別サイトへの移動のエスコートの任務もアルトゥールが僕と一緒に行くのだったけれど、アレックスが気を利かせて僕と一緒に出る事になった。なので、鉱山技師を別のサイトまで送り届け、彼の用事が済むまで時間があったので、そこから遠く無い廃鉱までアレックスとパトロールがてら警備員の見回りに出た。廃鉱は水が溜まって緑色の綺麗な湖になっているので、なかなか景色が良いのは以前にジャンと来た事があって知っていたのでそこへアレックスを案内した。アレックスはコークを保温バッグに入れて持ってきていたので、廃鉱跡の湖のところで休憩した。

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鉱山技師の仕事が終わったので、「工場」と呼ばれる僕らがいるサイトまで戻った。16時なので、次のパトロールは19時に行く事にした。そのあとは明け方の4時。

 

アルトゥールに19時に部屋の前までトヨタで迎えに行くと言ったのにいない。アレックスに電話した所、奴はまだ食堂で食べているらしい。「奴の部屋の前にいると伝えてくれ!」とアレックスに頼んだ。トヨタの運転席でタバコを吸って待っていると、暗闇を小走りで近づいてくるアルトゥールが見えた。「ごめん、ごめん、すぐ用意するよ!」と言ったので、ちょっとイライラしていたけれど、「別に遅れているわけでは無いから大丈夫だ」と言ってタバコをふかした。

別に時間きっかりに出かける事も無い訳で、焦る必要はない。数分後にアルトゥールはやって来たけれど、荷物を後部座席にさっさと積めば良いものを何かウダウダやっている。サッサと乗れ!

 

19時のパトロールは夜間だと視界が埃で悪いので30分はかかる別のサイトの内周を回る事にした。泥棒達がフェンスを破ったところを日中に警備会社が修復していたので、どんな具合か見るのも目的であった。

 

「工場」を出発して大きなラテライトの道路に出た。今日は風がないので、埃が道路上を漂っている。風があると埃が流れていくので視界は良好なのだけれど・・・。

走っていると前方にトラックがいた。「こいつのせいか、このすごい埃は!」最初の監視所のシケインをトラックが抜けるまで追い越すのを我慢する。シケイン手前の監視所の連中の様子を見てからシケインを抜けて直線になったところでトラックを抜いた。しばらくは視界が良かったけれど、別のトラックがかなり遠くにいた。その埃で、普段ならハイ・ビームにして走るのだけれど、ハイ・ビームだと埃で道路が見えない。仕方なくロー・ビームにして4速で進んだ。

 

別のサイトに着いて内周を回り始めた時にアルトゥールに聞いた。「拳銃の薬室に装填しているか?」そうしたら奴は「さっき部屋を出る時に装填した。以前は射撃のインストラクターをしていたし・・・」「今日の午後は拳銃の操作の復習をした」などと聞いてもいない事を答えた。僕が知りたかったのは拳銃の薬室に装填してあるかという事だけで、その他の事は聞いていない。なので、「なんでそんな事を言うんだ?」と聞いた。そうしたらアルトゥールは「友達同士の会話だからさぁ・・・」と言った。そこで僕は「俺とお前は決して友達なんかではない!ただの同僚だ!」と喉から出掛かったけれどどうにか飲み込んだ・・・。

僕はそれ以上会話を続ける気力が無くなったので、パトロール中の会話はそれ以上は無かった・・・。

朝のパトロールの後に、アルトゥールは明け方4時のパトロールにも出たがったけれど、アレックスが「お前はまだ来たばっかりだから」と説き伏せて「カワはピエロと4時のパトロールに行くからお前はゆっくり寝ていろ!」と言ってくれた。ピエロは心得ていたので僕の事を見てニヤリと笑った。