2020年2月10日
この日は相棒のジャンとパトロール番だったのだけれど、防御用ポストの仕事に2人共駆り出されて午前中いっぱい作業をした。その日の作業番の連中が行くべきところをどういう訳か僕とジャンに行けと連絡が来た。
大型トラックのタイヤを積み上げてその中にラテライトの土を入れる。それが終わったら外側にさらに土を盛って出来上がる。そうする事によってテロリストが使うロシア製のPKM軽機関銃の7、62ミリ弾やカラシニコフの弾は止める事が出来る。さらに彼らが使うRPG7携行式ロケット砲のPG7ロケット弾も盛り土やタイヤのおかげで止める事が出来るのだ。
ここは鉱山なのでトラックが大小たくさん走っていて古タイヤはいっぱいあった。あとはいつも手伝ってくれている人夫を使って砂嚢をいくつか補強に置けば出来上がる。
午後はトヨタで20分ほどの閉鎖された鉱山跡の方にパトロールに出た。ジャンは明日契約終了でフランスへ帰るので、パトロールついでに記念写真をあちこちで撮った。
パトロールから戻ると何故か関係無いのにマネージャーのマグに別のサイトに行く様に言われて行ったは良いけれど結局何も無い。無駄な事をさせられた。マグが休暇に出る時に代わりにマネージャーをやるロランという奴も昼頃やって来た。元外人部隊兵で、所属や階級は知らない。ただ僕が聞いたのはあまり良く無い評判だけだったので、マグ同様マネージメント力は無いらしい。「俺は重要人物なんだぜ!」みたいな雰囲気を醸し出しているのを見て「どこかでよく見る勘違い野郎だな」というのがパッと頭に浮かんだ。
18時に全員事務所へ集まれと無線で連絡が来たのでそれに間に合う様に戻った。だけど18時になっても何も起きず、疲れていたし腹が減り始めた僕らはイライラしていた。その時、ドッグ・ハンドラー2人が2匹のパトロール犬を連れて来た。何かと思ったら僕らメンバーの匂いを嗅がせて仲間だと言う事を確認させるためと言う事だった。はっきり言ってアフリカではこの手の犬は暑さで使い物にならないのはモガディシオにいた時に見ているので経験から知っていたし、フランス海軍コマンド出身のヤンも同意見だった。相棒のジャンは「俺は明日で終わりなのに、勘弁しろよ!」と言った顔をしていた。この手の犬は、犬に詳しく無いので正確なところは忘れたけれど、日中ならば暑すぎるので、30分仕事をさせると1時間半ぐらい休ませないとダメらしい。なので、モガディシオで仕事をしていた時には邪魔になるので任務に犬を連れて行った事は無い。
僕に言わせるとここで必要なのはパトロール犬だけじゃなくて「爆発物探知犬」も必要なのだ。毎朝正面ゲートで現地警備員の行ういい加減な手荷物検査などよりはるかに効率がいいし、テロリストが紛れ込んだ時の爆薬発見には犬の方が役に立つ。
20時のパトロールに付いて来るらしい。邪魔なんだけど・・・。
その時だった。鉱山会社の方から電話で、鉱山技師が閉鎖されたサイトが再開されてそちらで仕事のために移動するからという事で僕らにそこのサイトまでの往復のエスコートを要請して来た。僕らはパトロール番で、そういう飛び込みの任務は非番で待機の連中が行くべきところをまたも僕とジャンが行けと言う事になり晩飯の時間だったけれどエスコートの任務に駆り出された。
メインサイトの「工場」へ戻ったのは20時近かったので、「犬」を連れたパトロールはキャンセルにした。
鉱山技師は何時まで仕事をするか分からないのでジャンと携帯電話の番号を交換して僕とジャンは部屋に戻った。すぐに戻る事は無いので、急いでシャワーを浴びて今日の埃を洗って洗って綺麗なズボンとシャツに着替えた。
ジャンが僕の部屋に来た。鉱山技師からジャンへ帰りの時間の連絡が来たけれど明け方4時近くになるというので、4時に迎えに行くと言って電話を切ったそうだ。明け方3時40分にパーキングに止めてあるトヨタに集合と言う事で寝る事にした。目覚ましは3時にセットした。
2020年2月11日
3時に目覚ましで起きた。昨夜は21時に寝たので6時間ほど睡眠が取れた。顔を洗い歯を磨いた。急いで服を着て装備を身につけた。腰のホルスターに入った拳銃を取り出してスライドを引き薬室に弾を装填する。時間が少しあったのでメールなどに目を通した。それと同時に目覚まし用にコークを飲んだ。即燃性糖分が必要だった。
3時半に仕事用の携帯電話が鳴った。ジャンだった。鉱山技師は4時半に自分で戻って来るのでエスコートは要らないと言う事だった。なら昨日の夜のエスコートは何だったのよ!と一人で突っ込んだ。パトロールは4時半にしようと言う事になったので、「じゃぁ4時半に車でな!」と言って携帯電話を切った。あと1時間あるけれどすでにコークを飲んで目が覚めたので起きている事にする。
トヨタのところへ行きまだ5分ぐらいあったのでiPhoneを見ながら暇をつぶした。4時半になってもジャンの部屋の電気が点かないので電話した。彼は寝ていた様で「すぐ行くからちょっと待っていてくれ!」と言ったので電話を切ってタバコを吸っているときっかり5分で出て来て運転席に座った。さすが元コマンドチームに居ただけの事はある。
今日ジャンはまず昼過ぎのバスでここ西アフリカ某国の首都に戻り、明日か明後日の遅い便でフランスに戻る。マグやロランのマネージメント力の無さのせいで、ジャンはもうここでの仕事にはウンザリしていた。昨日の晩のエスコートの一件だけじゃなく僕もジャンの言っている事が分かった。ここでの契約は更新出来るけれどすでに何人も辞めているわけが分かった。ジャンは契約終了で、そのあと僕は誰と組むかは知らない。
どこの世界も一緒で、使えない奴が上に居ると確実に此方のやる気が削がれるのはあちこちで見て来たので知っている。ここもそうか・・・。僕はフランスに戻るまであと2週間もある。あまりひどい事にならないといいけれど・・・。
それに本来の僕の仕事とはそんなに離れていないけれど、「安全は欲しいけれどお金はかけたくない」らしい会社での仕事はいずれ無理が来る。テロリストの攻撃があった場合、対処するのは容易ではない。まだまだ対処しなければならない所がかなりあるけれど、そのための準備に必要な物の準備がなかなか進まない。非常にストレスが溜まるのだ。僕は民間人にも「IED Awareness」(いわゆるテロリストが使う簡易爆破装置の関する注意や啓蒙、安全対策など)の授業を行うのだけれど、ここではまだ一度もした事がない。多分会社は生産が第一でそう言う危険な話は聞きたくないのであろう。死人や怪我人が出ないと分からないと言うのは道路の信号機設置の時の問題と一緒だ。
残り2週間何とか問題なく過ごせたらいいのだが・・・。
※安全上国名は明かしません
安全は欲しいけどお金をかけたくない会社って…ブログ主さんや同僚のジャンさんは今までこういう現地で働く人間の安全に理解のない会社で働くことが多かったと記事を読むに推測してしまうのですが、そんな会社で働くときに自分や同僚の命の価値やそんな場所で働くことの意義を見失ってしまうことはないですか?外国人部隊で命をかけて従軍されていた時との心情の違いや虚しさを覚えたりしませんか?
ご無事でありますように。
現地に実際に就くまでここまでひどい?会社だとは思わなかったですね。この様な会社は僕は初めてですよ。金の鉱山なので、会社は金の産出量にしか興味がないのですよ。ここまで安全を蔑ろにしているところは初めてですね。ジャンは契約更新しないと宣言してさっきバスで首都へ向かいました。僕も長くいるつもりは無いですよ。今までの会社はその様な事はなかったですよ。ソマリアでもしっかりした会社だったし。まぁ、お金はアメリカ国務省とかから出ていたからなんだけれど。