番外編 西アフリカ某国の日記 9

2020年2月22日

今日はパトロール番だ。前回はアルトゥールがついて来たという事で、今回はアレックスが来る事になった。というより、アルトゥールは変わった変な奴という事が他の全員の一致した意見だったので、何かあった場合に足手纏いになると困るからアレックスも二つ返事でOKしてくれた。

7時半に事務所に行くと、ロランから呼び出しがあった。「今日のパトロール番はKawaとアレックスか?」というので「そうだ」と答えると、「電気技師が数カ所のアンテナの点検に行くのにエスコートが必要だから一緒に付いて行ってくれ。」と言われた。事務所前にはそれらしき二人がいた。近づいていって挨拶する。全て回って点検するのに2時間ぐらいかかると言うので、「僕らはその護衛のためにいるので、時間は気にしなくて良いよ」と説明した。

8時前に出て3カ所ほど回って事務所に戻ったのは11時近かった。

午後は一番大きな外周のパトロールをした。ボロボロの車番「01」は、トヨタのHiluxではなく一応ランクルなので、1速に入れて発進するのだが重くて鈍い。2速に入れると勢いよく走り出すと言う変な癖があった。まるで部隊にいた時に運転した事がある装甲車並の反応の鈍さだ。今までのトヨタ・ランドクルーザーの中で一番状態が悪い。スピードメーターは10数キロメーターまでしか上がらない。燃料計は動かない。勝手にカーラジオから音楽が流れる。

後ろの荷物扉は開ける事は出来るけれど閉める事は出来ない。2人がかりで如何にか7割ぐらい閉めて最後に一発「蹴り」を入れないと完全には閉まらないのであった・・・。スターターの具合も悪くてキーを回してもエンジンがかからない事がしょっちゅうあった。なので、朝事務所に向かうのにも「もしエンジンがかからなかったら?」と、ドキドキさせられるランクルであった。この車は鉱山が開いた10年前の最初の車なので車番が「01」なのだった・・・。

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今夜は、「工場」から30分程の所にある別のサイトに「泥棒」を捕まえに行く作戦を行うと言う事だった。2回ほどジャンとやった事があるけれど、ロランとオリヴィエの作戦は別の方角だったので、いまいちわからん・・・。

オリヴィエが本隊より1時間先行して暗闇に潜んでサーモカメラで監視をする。1時間ほどして本隊がサイトに突入。本隊はロランとアレックスがオフロード・バイク、ピエロとアルトゥールがパトロール犬とそのハンドラーのノルベール、僕は高台にオリヴィエを運んで、サイト入口近くの村の入り口付近で本隊が来たら合流すると言う手筈だった。

僕とオリヴィエは21時に出発する事になった。21時10分前に僕の部屋のそばに停めてある車番「01」を見ると既にオリヴィエは乗っていた。腰の拳銃の薬室には装填してある。僕は後部座席にバックパックとショットガンを置くと運転席に乗り込んだ。

「!」エンジンがかからない!いろいろ試して10回目ぐらいにやっとエンジンがかかった。急ぎではないし、ゆっくり目的のサイトに向けて走る。鉱山なので24時間稼働している。なので、目の前にトラックが走っていると埃で前が見えなくなる。2度ほど前が見えなくなって2速まで落とさなければならなかった。

サイトに着くとロランの説明と違う事があったので、オリヴィエが新たに説明してくれた。問題なのは、ロランはこの鉱山が開かれた時からいるので全ての場所を知っているのだけれど、それを全員が知っていると思っている節があって説明不足はしょっちゅうあった。僕等はロランが何処の何の事を言っているのかわからず何度も聞き返したり質問をするのが常だった。なので細かい食い違いや説明不足の所をオリヴィエが説明してくれた。

オリヴィエを配置場所であるサイト内の高台に「01」で運ぶ。キツい石だらけの坂道でもデフロック無しで登る事が出来たのは、ボロでも一応トヨタの「ランクル」だからか???オリヴィエはランクルを降りると暗闇に消えていったので、僕はランクルをUターンさせて元来た道を戻った。サイト近くの集落の入り口付近の目立たない所にランクルを止めて本隊を待つ。21時40分だった。本隊が来る予定時間は23時。暗闇の中運転席で待つ。部隊にいた時を思い出した。暗闇での見張りはこんな感じだったなぁ・・・。

 

村の中では大音量で音楽が流れていた。そりゃぁそうだ。今日は土曜日だ。その音源付近に向けて沢山のバイクが向かっていった。僕はそれらのバイクのライトが直射しないところにランクルを停めていたのでほとんどのバイクは減速もせず目の前を通り過ぎていった。

カシオの「Gショック」が23時を示している。そろそろ本隊が来る頃だ。その時車のライトが見えた。この辺の集落に車はほとんど無い。僕の50メーター先に止まった。2台のオフロードバイクが通り過ぎて戻って来た。車のヘッドライトに照らされてアレックスだと言う事がわかった。オフロードバイクのライトの脇にはHiluxがいて、ボディーに書いてある「SECURITY」の文字が見えたので、本隊だと確認できたので、僕もそこに向かおうと車のキーを回した。

「!」エンジンがかからない!オフロードバイクが向きを変えて僕のいる所から離れていく!Hiluxもゆっくり動き出した。「マジか!」10回目ぐらいでやっとエンジンがかかった・・・

急いで本隊に近づいてピエロが運転するHiluxの後ろにつけた。凸凹のコットン畑を横切りサイトの外周道路に出た。

スモールライトにしてピエロの後ろを進む。しばらく走るとアレックスとロランのバイクが外周道路を外れてあちこち走り回っている。泥棒を発見したのだ。泥棒達は、鉱石を盗んだ直後で、袋には金を含んでいる砕かれた鉱石が入っていたのだけれど、ロランとアレックスのバイクに追い回された挙句それらの袋を置いてバラバラに逃げ出した。

バイク一台がピエロのHiluxの所に来た。ロランだ。なんと自転車を肩に担いでいる。泥棒達の自転車だった。ロランはそれを地面に投げ出すと再び泥棒達が逃げた方へ向かうのに今度はピエロのHiluxを横取りして凸凹の中をものすごいスピードで進んでいった。その辺を一周してすぐ戻って来た。

アルトゥールはその投げ出された自転車をピエロのHiluxの荷台に積もうとしていたけれどなかなか苦労していた。普段は誰も聞いていないのにみんなに「懸垂」とか「腕立て伏せ」とか「ウエイトトレーニング」や「筋肉の使い方」などの講釈をするのだが・・・

そしてどうにか自転車を積むと、今度は泥棒が置いていった袋をHiluxの荷台に積もうと躍起になっていた。バンパーの高さまであげたけれど、重かったらしく10数秒バンパーの所で持ち直して上げようとした。けれど上げ切れずあと少しのところで、袋の中身を自分に向けてばら撒いた・・・。僕はすぐ後ろにランクルを停めていていつでも車を動かせるように運転席にいたのでスモールライトだけだったけれど丸見えだった。奴は誰も見ていないと思い、ばら撒いた事を隠匿しようとして袋の残りを地面に捨てると袋を丸めてHiluxの荷台に投げ込んだ。俺、ちゃんと見てるんだけど・・・。

 

ピエロと僕はやる事がないのでいつもする事をした。タバコに火をつけたのだ。半分ほど吸った時にアレックスのバイクが僕とピエロのそばに止まった。バイクから降りたアレックスは開口一番「Kawa!タバコくれ!」

その時車が1台外周道路を走ってくる。応援としてよんだ共和国警備隊のHiluxだった。来るのが遅すぎる

 

ロランが戻って来た。そして別のところに移動するために再びバイクに跨ると外周道路を進んで行った。ロランがHiluxを停めた位置が僕のランクルの斜め前で近すぎたので、僕はピエロを先に行かせるために少しだけバックした。まだ足りなかったようで再びバックした。僕の後ろには今夜の作戦要員として共和国警備隊のHiluxが止まっていた。僕のランクルのバックライトがついているにもかかわらず動こうとしない。僕は構わずバックして共和国警備隊のHiluxを押すつもりでぶつけた。ピエロが無事外周道路に出て進み始めたので僕も後ろについて進んだ。共和国警備隊のHiluxのヘッドライトは点いていたけれど、僕にぶつけられたからなのか一向に進む気配がなく、そのうちに僕のバックミラーから消えた・・・。

 

僕はピエロの後部ライトを目印にスモールライトのまま進む。埃で前が見えなくなったので、外周のフェンスを見ながら運転したところがほとんどだった。どうにか正面ゲートに着いた。さっきぶつけた後部バンパーをいつもベルトに付けている携帯用の強力なライトで照らして見てみた。ランクル「01」は既にボロボロなので、ぶつけた跡はわからなかった・・・。良心の呵責はない。向こうがバックしなかったのが悪いのだ。その後の共和国警備隊のHiluxがどうなったのかは知らない。あとでロランか誰かに聞こうかな・・・。

 

今度はサイトの内側から攻めるらしい。ロランが「オリヴィエを迎えに行ってくれ」と言うので、オリヴィエを降した所へ向かう。オリヴィエを拾ったら北側の監視所付近へ進めと言う事だったけれど何を言っているのかわからん・・・。「オリヴィエはそれを知っているのか」と聞くとなんだかあやふやな言い方で「一度下まで降りて北側の監視所の方に登って進め!」と何だかわからないけれどとにかくオリヴィエを拾うためにランクル「01」を発車させた。

高台に僕がついたのはオリヴィエにも見えていたので、しばらくしてオリヴィエはランクルの所に戻って来た。ロランが言った事を伝えたら少し考えて「多分こう言う事だろう」と言って僕に進む方向を指示する。高台を降りて元来た道を戻る。途中に以前ジャンと作った防御用ポストのところから別の高台へ行く道があるのは知っていた。どうやらそこから別の高台の監視所付近へ行くらしい。

その高台の道路はパウダー状の埃が足首まであってものすごい煙状になった埃が舞い上がった。途中ワイパーを動かしてフロントグラスにくっついた埃をはらわなければならなかった。しばらくそこにいてロランとオリヴィエが話していたけれど、「作戦終了!」ロランの一声でランクルをUターンさせて宿舎へ向けて出発した。僕はだいぶこのランクル「01」に慣れたので夜中の1時にやっと部屋に到着した。途中、暗闇から突然現れた向かい合った牛の顔と顔の間をスレスレで通り過ぎてヒヤッとしたけれど・・・

パトロール番なので明け方4時のパトロールがある。既に1時なので、messengerでピエロに「5時出発に変更」と送った。

埃を落として腕まで石鹸で洗いタバコを吸おうと部屋を出るとピエロやアレックス達が到着した。タバコを吸っているとピエロから返信で「明け方のパトロールはキャンセル」と来たので、「了解。それじゃ、明日の朝食で会おう!」と送って寝た・・・。

 

2020年2月23日

朝食の時はもちろん昨夜の話。特にアルトゥールの袋ぶち撒け事件を僕が暴露したのやその他ロランが自転車を肩に担ぎながらバイクを運転した話、夜中の1時過ぎに宿舎に着いたピエロの自転車4台、泥棒の袋5つが積んであるHiluxの荷台を見たアレックスが「明日この車はパトロールに使うから荷台を空にしておいてくれよ!」と言ってこっ酷くピエロに返された話などで朝から大爆笑だった。僕は非番というか今日はパトロール明けの非常待機番なのでこのブログを書いている。最近は大爆笑になる事件が続いていて、そのおかげで最近の食後の雑談の時間には笑い声が絶えず、僕は既に3年分ぐらい笑った・・・