B105 ビールのための「小隊秘密資金」

1989年9月11日(月)

              24時にガードを終えて横になったけれど、雨に顔を叩かれて目が覚めた。昨日の夕方は曇っていたので大丈夫かなぁと思っていたけれどやっぱり降ってきた。どんどん激しくなってきて、装具や寝袋が濡れていく。急いでトラックの下に移動して雨を凌いだけれど、気温が下がり、おまけに膝から下と袖のあたりが濡れてひどく寒かった。ポンチョを体に巻きつけてどうにか横になった。こんな酷い状態でも寝てしまう。そんな事の出来る自分に感謝だ。

装甲車の中は、軍曹と伍長が占領しているので1等兵でも割って入る余地はない。トラックは、小隊の装備品などで、残りの隙間はもモジェール上級軍曹と中尉だ。なので僕ら兵士達は車両の下しか雨を凌ぐ事は出来ない。なぜかテントは無いのだった。車両部隊だからか?

昼ごろまで降り続けた雨だったが、やがて太陽が出て暖かくなって来た。動く気配がないので、今日は待機かな?車両の周りのガード以外何もする事はなかった。濡れた戦闘服の上にパーカを着てウトウトしていた。

夕方、小隊の一部が出かけた。偵察かな?1時間もしないうちに戻って来た。なんとワインやハム、チーズを抱えている。装甲車で買い出しに出かけたのであった。ビックリしたのはこの1度きりで、あとは除隊まで演習の時は機会を見つけてパン屋に行ったりそこの土地のワインやハムなどを買って来てレーションは下士官の時は何年も食べなかった。

それらのおかげで随分と豪勢な夕食になった。今夜は月も出ているし雨は降らなさそうであったけれど、みんな昨夜の事があるのでトラックの下で寝た。

 

1989年9月12日(火)

夜中の3時に叩き起こされて急いで出発した。50〜60キロぐらい移動するという事だった。寒い上に眠い。まだ9月半ばなのだけれど、さすがにこの時間は気温が低いのだった。7時少し前に高速道路沿いに停車した。下っ端なので、今日は何をやるのか全く分からず。ワインを温めて砂糖を入れるとなかなかいい飲み物になった。体が温まる。

13時から18時にかけて飛行場に対して滑走路の破壊命令が下った。飛行場に着き、滑走路のそばに停車する。昼食を取って滑走路の様子をうかがう。しかしここは小さな飛行場だけれど民間のものなので、めったやたらに入る事は出来ない。のちに伍長ぐらいになってわかるようになるのだけれど、これは実際の部隊を動かす師団の卓上演習なので、僕らはここでは実際の作業は行わず、滑走路を破壊した事にする演習なのだった。なのでやたら待ち時間があるのはそういう訳だった。実際は小隊で昼寝をしたようなものだった。ただしいつ呼び出しがかかるか分からないので、無線係だけはちゃんと起きている。

夕方またモジェール上級軍曹が買い出しに行って来て、なんだか演習を行っているという意識は薄い。頭上をグライダーがゆっくりと旋回していたり、軍の輸送機が爆音を上げて飛び過ぎて行った。

買い出しのお陰で今夜も豪勢だった。ビールやワインの他に、火を起こして牛肉のステーキを焼いたり、チーズやデザート用にクッキーなどもあった。

この買い出しのお金は、本当は禁止されているのだけど給料日になると全員が10フランなり20フランなり小隊で集めてプールしておくのだ。禁止されているというけれど、どこの小隊でもやっている事だった。いわゆる「小隊の秘密資金」なのだ。特に何もないと使わない分溜まっているので集められない事もあった。そのお金はこういう演習の時に役に立つのだった。士官も下士官も払うので、みんな均等に分け隔てなくビールが飲めるという訳だった。

今夜は0時から2時までのガードなので早く寝よう・・・。

 

 

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