B060 1989年5月26日(金) コンプ軍曹と犬の糞〜長距離行軍出発

今朝出発前に思いがけず家からの手紙を受け取った。荷物を積んだり忙しかったので手紙はバスに乗り込んで発車してから読んだ。何故だかわからないが涙が後から後から溢れ出て来た。拭っても拭っても。頬がとても熱かった・・・。4ヶ月ぶりに家の様子が分かったからだろうか?みんな元気でよかった・・・。

いきなり山の上にバスから下ろされた。トラックに積んでいた背嚢を降ろす。この時大爆笑事件が起きた!

おっとりしているポーランド人のカノルスキーは、他の背嚢同様に分隊長のコンプ軍曹の背嚢をトラックから降ろし邪魔にならない草むらに置いたまでは良かったのだが、コンプ軍曹以下分隊全員が背嚢を背負っていざ出発しようとしたらいきなりコンプ軍曹が怒鳴り出して自分の背嚢を地面に投げ捨てたのだ!それからその辺に生えている草を毟り取り自分の背嚢をその草で拭き始めた。僕らは何事かと軍曹を見つめたままだ。そのうちコンプ軍曹は上着を脱ぎ出した!「カノルスキー!お前は営倉行きだ!営倉だ!」と叫んでいる。何かと思ったら、カノルスキーが軍曹の背嚢を置いた場所であった。草むらなので彼は気が付かなかったのかどうかは今となっては分からないが、何とそこにはまだ新鮮な犬の糞があって、背嚢を背負った軍曹の丁度右腰あたりにベットリと犬の糞が付いたのであった。背嚢と上着で擦れたせいでまた新しい新鮮な匂いが漂いコンプ軍曹もおかしいと思い腰に手をやって気がついたのであった・・・。僕らは笑うに笑えずどうしたものかと悩んだが、やがて堪え切れない奴が大声で笑い出した!コンプ軍曹は相変わらず「カノルスキー!お前は営倉行きだ!」と怒鳴っていた。さすがのロサ・ファテラ上級軍曹も声を出して笑っていた。トラックから自分の着替えを取り出してコンプ軍曹は少し落ち着いた様であった・・・。当のカノルスキーはというと両手を広げて仕方ないと言った仕草をして涼しい顔であった・・・。この事件のおかげか、これから長距離行軍へ出発する僕等の緊張が少し解けた。

長距離行軍の開始だ。高い山の方へどんどん向かってゆく・・・。この日は一切下りはなかった。全て登り道であった。夕方4時には野営場所に到着した。1386メートルの山の頂上での野営だった。アスファルトの道はほんの2キロメートルぐらいだったので、足にマメも出来ずに歩けた。でも、背嚢や全部の装具の重さが20キロ以上あり肩がとても痛い。明日は酷い事になりそうだ・・・。

                            読んでくれた人、ありがとう