B038 野外訓練第3週目 その2 シャワー

だんだん訓練の内容が濃くなってきた。覚えなければならない事が沢山あった。ここでの生活も慣れてしまい、辛いだとかキツいだとか何も感じなくなった。それでも来た当時に比べると春なのか暖かい日が多くなり寒さに震える事が少なくなったのは確かだった。以前は毎日曇りか氷水のような雨だったのに。

ある日曜日の事だった。久々に大した事もなく宿舎の脇でタバコを吸ったりくだらない話をしていると、少し離れた所から銃声がした。FA-MASで空砲を撃った音ではない。高いところに登って音のした方を見てみると、どうやら中尉がクレー射撃をしているらしかった。フェレイラ見習い伍長が僕らを呼びに来て僕らは中尉の周りに集まった。上下2連のショットガンが2丁あった。そして各自4発ずつ撃たせてもらう事になった。ショットガンなんて触ったことがないしましてやクレー射撃などやった事はない。おまけに動かない紙の標的しか撃った事がない。ショットガンはとても長く感じたしそれに思っていたより重かった。FA-MASがあまりにも短くて軽いからだった。

掛け声をかけると、機械の所にいるフェレイラ見習い伍長がクレーを放つ仕組みだった。僕の番だった。掛け声をかけるとクレーが勢いよく自分らのいる場所より低い所から飛び出した。どこをどう狙ったらいいか初めてだったので、見当をつけて撃った。1発目はかすった程度でクレーの端が飛び散っただけであった。2発目と3発目は見事命中した。4発目は外れてしまった。初めてにして50パーセントは悪くはないだろう。しかしこれは面白い!本などで読んだ事はあったがクレー射撃がこんなに面白いものだとは思わなかった。しばらくは興奮が冷めなかった。

また別の日の戦闘訓練は周りの地形を生かしてだんだん高度になっていった。周りの丘や山を使ってポイントを回りながらの戦闘訓練を行なった。伍長達が隠れている陣地の攻め方などだ。空砲と訓練用手榴弾を沢山渡された。スタートからゴールまでかなりの時間がかかった。フランス軍の基本は2名1組での行動だった。片方が進む時に片方が援護する。言葉を発しないでジェスチャーで意思疎通をする。歩兵としての基本動作だったので、陸上自衛隊の「歩兵」連隊にいた僕はそんなに難しくなかった。

シャワーは僕達にとって苦行であった。宿舎の納屋から50メートルぐらいの所の原っぱに、灯油か何かで水を温めるタンクがあり伍長が火を点けて水を温める。仕切りも何も無い所にシャワーヘッドが8つ、むき出しのパイプの先についている。シャワーヘッドの根元の所に栓がありそれを捻るとお湯が出るという仕掛けであった。しかし問題はここからであった。最初に浴びる連中は、火傷する程の熱いお湯が出て来るので浴びる事が出来ないでいる。そのうちいい温度になるのだが伍長の号令で交代しなければいけないので結局大して体を洗う事が出来ないままとなる。2番目の連中はいいお湯加減なのだがそれも長くは続かずにぬるま湯になる。交代の号令がかかる。吹きっ晒しの原っぱで寒い事この上ない。先に終わった連中は全員が終わるまでそのまま待っていなくてはならなかった。最後の方はもう水しか出ず、体を洗うどころでは無かった。しかし軍隊では清潔を保たなければ罰を食らうので、日番伍長は僕達がちゃんと洗ったか見て回る。特にマクナマラ伍長は厳しかった。彼に見つかると大変であった。彼の見ている前で、冷たい水だろうがなんだろうが洗うように命令されるのだ。それに懲りた僕達は、伍長の死角に入るシャワーヘッドの下で頭や顔、肩を濡らしただけで「あぁ!いいシャワーだった!」という顔をして伍長の目をやり過ごす事を覚えた。とにかくシャワー問題は僕達にとって重要案件であった。

フェレイラ見習い伍長が「伍長訓練コース」に行くので小隊からいなくなった・・・。

                            読んでくれた人、ありがとう。