B039 野外訓練第3週目 その3 「Marche-Képi-Blanc」  1日目

いよいよ「Marche Képi-Blanc」(ケピ・ブランの行軍)だ。この数日間に及ぶ行軍をやり遂げて初めて外人部隊の制帽である「白いケピ」をかぶる事が出来るのだ。いつもより背嚢に入れる物が多い。先週途中除隊する奴と半長靴を交換してサイズの大きいのを手に入れていた。だから今回の大事な行軍は大丈夫だろう。そいつは早くも軍隊生活は自分には無理だと悟って除隊を申し出たのだ。4ヶ月が終わるとまたオバーニュに戻ってそこから一般の連隊に配属になるのだが、4ヶ月以内なら途中で除隊出来るらしいと言う事を誰かが言っていた。

宿舎の大掃除をした。今回の行軍で新兵訓練は一段落するので暫くはここに戻って来ないからだった。3週間はあっという間であった。最後の週は隊歌を行進しながら歌う訓練も毎日やった。外人部隊必須の訓練であった。ルアール伍長が担当なのだが、上手く行かない部分があると「Halt !」(止まれ!)の声が響き、すかさず「à position !」(姿勢をとれ!)の号令が掛かり腕立て伏せだ。宿舎から一般道に出るまで並木道が500メートルぐらいあったけれど、その道を歌いながら何度も往復した。僕の他に何人かは歌の2部(高い方)をルアール伍長に教えられて上手くハモると軍隊の歌なのだけれど中々いい感じがした。「ケピ・ブラン」という歌も覚えた。

カステルノダリーの方向とは逆の方へ向かって出発した。先頭のコンプ軍曹は時々立ち止まり地図とコンパスを見る。フランスの田園地帯の景色は素晴らしかった。それに晴れていてとても気持ちが良かった。背嚢のストラップが肩に食い込み始め痛かったけれど、足の方は大丈夫だ。1時間ちょっと4、5キロ歩いて5分の休憩というペースで歩いた。夕方近くになり、ルアール伍長が運転しロサ・ファテラ上級軍曹の乗っている食料などを積んだトラックが休憩している僕らの脇を追い越していった。

休憩の後、コンプ軍曹はとんでもないスピードで歩き出した。皆軍曹に追いつけず、離されては小走りで追いつくといった感じであった。ポーランド人で少し太っちょのカノルスキーはもう目が虚ろで今にも倒れそうなくらいフラフラだ。しかしコンプ軍曹はそんな事は気にかけずどんどん進んで行く。決められた時間に今夜の宿営地に着かなければならないからだ。早く着く分には一向に問題はない。

大きな街の入り口に差し掛かった。大きな道に出た。少し進むと大きな川がありこれも大きな橋が架かっていた。その橋の手前に「Gendarmerie」(ジャンダームリー=憲兵隊)のブルーの車が止まっていた。コンプ軍曹は2人いたうちの1人に「行軍中の兵士を見なかったかい?」と聞いた。その憲兵は「それなら橋を渡って真っ直ぐ行ったよ!」意味ありげな笑いを浮かべて言った。コンプ軍曹について橋に向かって歩いていくと橋のたもとに川へ降りる道があった。その先を見ると!河川敷に先に到着した第1分隊の連中とロサ・ファテラ上級軍曹のトラックがいるではないか!中尉もいる。今日はここで終わりだ!ちょっぴり元気が出た。

薪を集め火を起こし、ソバージュとお互い2枚ずつ持っているテントを出し2人用テントを張り運動着に着替えてから夕食だ。ロサ・ファテラ上級軍曹が持ってきたタバコとチョコレートがあって欲しい奴は名前と数を申告して一つずつ貰う事が出来た。あとで給料から引かれるのではあるが。僕はマルボロ一箱と「Mars」を一つ。チョコレートがこんなに美味しく感じた事は無かった。

日が沈んで食事も終わり一頻り落ち着いた所で集合がかかった。ルアール伍長の指示でレイサックの時に覚えた隊歌を歌う事になった。覚えたばかりだったけれど、2部になってハモるところがあったりしたので、星空によく響いた。ふと橋の方を見上げると通りがかった民間の人々が僕らの歌に聞き入っていた。なんだか誇らしかった。

                            読んでくれた人、ありがとう。

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