B014 1989年2月7日(火)   オバーニュ(外人部隊本部)左右色違いの靴下     

星が出ていてひどく寒い。マルセイユだ。早朝にも関わらず結構人が行き交っている。オバーニュからの迎えのバスが来ていた。急いで乗り込んだ。

              オバーニュの基地の門を入った。「ついにここまで来たか!」と感じた。僕らが寝泊まりする建物に連れて行かれた。結構立派できれいな建物だった。そこで別の上級伍長に引き渡された。ここ第一外人連隊の上級伍長だ。荷物を入り口に置いて彼に引率されて食堂に向かった。コーヒーやミルク、ココアなどが出て来る機械があり小さなボウルを見つけ僕も列に並んだ。前にいる奴のやり方を見ながら真似をしてボウルを機械の所に置いてコーヒーのボタンを押した。

   朝食は相変わらずパンと一口サイズのバターとジャムであった。間違っても「ベーコンエッグ」など出て来る事は無い。

              朝食後宿舎に戻り、各自自分の荷物を取ったところで地下に連れて行かれた。補給庫のようだ。何をするのかと思っていると、所持品検査だ。だが今度は本格的なやつで、服から何からすべて没収されるようだった。まず全員服を脱ぐように言われ、パンツ一枚の姿になった。そして一人づつ呼ばれ持ってきた荷物を調べられる。僕の番がやって来た。ノジョン要塞でした時と同じようにテーブルの上に全て並べる。ここの責任者らしい上級伍長と助手かなんかだろうか、伍長が傍にいた。持ち物に関しては、上級伍長が必要かどうかを判断してそうでなければ隣の伍長が無造作にダッフルバッグへ入れる仕組みになっている様だった。

髭剃り、辞書、タバコ、下着はパンツだけが残った。残りはまるで捨てるようにダッフルバッグの中に放り込まれた。

持って来た「ジッポー」のオイルは上級伍長が自分の脇に置いた。目ぼしい物は頂くといった感じでなんだか悪意を感じた。よく見ると、他の奴からせしめたらしい飛行機の中で出て来るような小瓶のウイスキーなんかもある。一番腹が立ったのは、救急用の薬や絆創膏が入ったアルミのケースを、そのままでは無くワザと蓋を開けてバラバラっとダッフルバッグに入れた事だった。でも文句を言う事は出来ない。やり場のない怒りだけが残ったが、ここで腹を立てても仕方がない。

              没収した服などはどうするのだろう???取られたフライトジャケットや「Levis」のジーンズは勿体なかった。もっと捨ててもいいような服で来るべきだった。まぁ、本にも全部没収されると書いてあったので一応覚悟はしていたのだけれど。ここ「オバーニュ」で、入隊出来ずに失格になった人間にはすべて返却されるという事を知ったのは何年も後の事だ。

              雑嚢をもらい辞書など残った物を入れて隣の部屋へ行った。そこではこれまたボロボロの緑色の運動着と履き古した運動靴、靴下を渡され、それに着替えて残りの連中が終わるのを待った。しばらくは気が付かなかったのだが、さっき渡された靴下は片方が黒でもう片方は焦げ茶色であった・・・。

                            読んでくれた人、ありがとう。