出発から3日もするとそれなりに洗濯物が出てくる。ホテルなど初めてだったしそのホテルのラウンドリー・サービスなんか使った事もない。記入用紙を見てもフランス語と少しの英語で出し方を知らなかった。ホテルの周りを散策した時に近くに雑貨屋があるのは確認していた。その隣にはその雑貨屋が管理しているだろう「コインランドリー」を見つけた。「よしっ!洗濯をしよう!」と汚れた衣類を持ってまず雑貨屋に飛び込んだ。洗剤関係の棚を見つけた。何が書いてあるか分からないが見当をつけて小さい箱入りのを買った。数日しかパリには居ないのでデカイ箱のを買ってもしょうがない。隣のコインランドリーに入るとすでに何人かが洗濯をしていた。なんか僕のことをジロジロと見ている。日本と変わらない仕組みなので衣類と洗剤を入れて硬貨を入れマシンをスタートさせた。数分経ったその時であった!ドラム式洗濯機の扉の所から尋常でない泡が漏れ出てきたのだ!煙のように漏れ出てくる泡であっという間にその辺一帯が水浸しになってしまった・・・。みんなにジロジロ見られていた訳がこれでわかった。「こいつ、コインランドリーに変な物を持ってきて何をやらかすつもりなんだ???」。僕が隣で買って来て、今しがた洗濯機に入れたその「変な物」とは何と「食器用洗剤」だったのだ!誰かが隣の雑貨屋のオヤジの所に報せに行ったらしかった。やって来たオヤジは惨状を一目で理解して思いっきり怒鳴り始めた。そして身振り手振りで入り口脇にある洗剤の自動販売機を指差し悪態をつきながら僕に説明した。そして踵を返すと雑貨屋に戻り再びやって来た。オヤジの手には雑巾とバケツ。まだブツブツ言っていたけれど、僕は雑巾とバケツを受け取り失態に顔を赤くしながら掃除した。顔から火が出るというのはこの事か?掃除が終わって、言われた通り洗剤を自販機で買い普通に洗濯し終えた。大失敗であった・・・。
同室の彼はその友人と毎日パリ市内を回って楽しんでいるようであった。僕はと言うと毎日特にやる事が無いのでメトロに乗ってあちこち移動した。慣れると表示の色で迷う事なく乗り降り出来た。綺麗なおねぇさん達が夜になるとお仕事をしていると言うRue de Saint-Denis(サン・ドニ通り)も見に行ったりとブラブラしていた。観光するという事は全く頭に無かった。だからこの時のパリ滞在は凱旋門も見ていないし勿論エッフェル塔も見ていない。
ある夜、ホテルの並びの小さいレストランに夕食を取ろうと思い、言葉も出来ないのに行ってみた。手には文庫本サイズの日仏会話集。レストランのオバさんはすごく親切で、僕の会話集を手にとってパラパラめくり「コレもあるしアレもあるのよ!」と会話集に載っている料理の絵を指差して色々と料理を教えてくれる。フランスでは牛肉は安いと言うことを知る筈もなく、悲しいかな「牛肉は高い!」と頭に刷り込まれている日本人の僕は仕方なく「豚肉」を注文。
折角なので赤ワインのハーフボトルも注文。暫くするとオバさんが薦めてくれた「オニオンスープ」が運ばれてきた。クルトンは硬くなってしまった本物のバゲット(パン)を千切ったもので、これは失敗だった。一端の大人になったつもりでワインを「ん〜!」などと呻りながら気取って飲んでいた僕は、ワインに気を取られていてスープが疎かになってしまっていた。当然の事だがクルトンとして乗っていたバゲットがスープを全部吸ってしまってネッチョネチョの形容不能な食べ物になってしまった・・・。折角注文したので3分の1ぐらいは食べたけれど残りは無理だった。オバさんがそれに気づいて下げてくれた。ハーフボトルはもう無くなってしまったので、もう1本追加を注文した。(結局普通のボトル1本分飲むのかよ!)メイン料理の「ポークのなんとかソース」と言うのが来た。味の方は美味しかったと言う記憶だけで、実際何がどう美味しかったのかは今となってはわからない。
読んでくれた人、ありがとう