B010 初めての食事、そして夜

昼食の時間になった。引率の上級伍長の後ろに付いて階段をおりる。外に出て一応隊列の様なものを組み食堂へ向かった。一つのテーブルは4人だ。席に着くと前菜4人分が載ったステンレスの大きな楕円の皿が来た。ラビオリであった。朝はクロワッサンだけ。おまけに寒いし極度の緊張で腹が空いていた。なのでこのラビオリは素晴しく美味く感じた。大人数用のデカい缶詰を温めただけなのだがあまりにこの時の印象が強く、今でもたまにスーパーで缶詰のラビオリを買って来るぐらい好きな料理の一つになってしまった。メインは同じ様な大きな楕円の皿に4人分の鶏肉だったか?

ラビオリの印象が強すぎて覚えていない・・・。

上級伍長たちが食べている方を見ると、最初は小瓶のビールを飲んでいたけれど 、メインが出て来た時にはピッチャーに入ったワインを飲んでいた。「マジか!」と思った。まだ12時、昼飯なのにもうアルコールを飲んでいる!

この時はまさか数年後には自分も平気で同じ事をする様になるとは思いもしなかった・・・。

昼食が終わると再びテレビのある大部屋に戻った。ボロボロの着古した戦闘服を着たフランス人?に付いて来る様に言われた。

外人部隊は、その名の通り外国人を集めてフランス人の代わりに戦争で戦うために1831年に創られた。なのでフランス人はいない筈なのだがフランス語が流暢な連中が多数いる。フランス人が外人部隊に入る時は名前、家族構成などを変えないといけないのだがそれよりもっと大事な事。つまり国籍を変えないとならない。フランス語を話す国の国籍を持っている外国人という扱いになる訳だ。例えばよくいるのが「ベルギー人」だ。あとは「スイス人」、「カナダ人」も多数見た。変わったところだと「モナコ公国」というのもいる。これらの国籍はほぼ9割9分フランス人だ。中には本当の「ベルギー人」や「カナダ人」もいるにはいる。フランス語に慣れて来るとアクセントでわかる様になって来る。だからなんだという話ではあるけれども。「国籍は関係がない。オレは外人部隊兵だ!」というのは部隊内でよく聞くフレーズだ。

さて、そのボロを着たやつに付いて行くと、やつと同じ様なボロボロの古い戦闘服を渡された。この場で着替えろと言うのですぐ着替えた。脱いだ私服は自分のバッグに入れた。ボロで古くて薄いので寒い。テレビの部屋に戻った。その時初めて気が付いたのだがよく見るとそのテレビのある大部屋には他にも7、8人の僕と同じボロ戦闘服の連中がいた。その他の連中は私服だ。何故なのかは分からない。

夕食の後もまたテレビのある大部屋に戻された。今夜のシャワーは無しだ。何時間かテレビ室で過ごしたあと寝るという事になったのだがベッドにはシーツは無い。ベッドの幅と同じ筒状の枕と2枚の深緑の軍用毛布だけだ。みんな空いているベッドに好き勝手に横になっている。僕もそうした。軍用毛布は肌に直接掛けると「チクチク」するので、寒かった事もあり靴だけ脱いで戦闘服を着たまま寝る事にした。その2段になった灰色のベッドは成人男性がきっちり一人分寝られるだけというぐらいの幅で、後で知る事になるが、幅70センチで、フランス軍の兵士用の標準ベッドだった。

下士官になると幅90センチになる。いずれ自分もその90センチ幅のベッドの恩恵にあずかる事になるのだけれど、それはまだまだ先の事だ。

ベッドに横になり少し考える時間が出来た。今はまだ「お客さん」扱いなのは知っている。唯一心配だったのがオバーニュの本部まで行ったはいいがそこで落とされる事だった。何しろあと200フランしかない。それから今日1日で強く感じた不安は言葉が全く通じないという事であった。ただ何故か「どうにかなるさ」という変な自信だけはあった。

明日はどうなる事やら・・・。そんな事を考えているうちに眠ってしまった・・・。

                            読んでくれた人、ありがとう。

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