B019 日本人志願者

ある日の午後、食堂の雑用から上手く逃れる事が出来たので、同じ様に雑用から逃れた連中と宿舎の裏で日向ぼっこをしていた。もう2月半ばで、着たっきりの運動着ではあったが風が無いと非常に暖かかった。これが「南フランス」というやつか?パリの寒さとは比べ物にならない。

新しく来た連中が何人か裏庭にやってきた。その中にアジア系が一人いた。僕の方にやってきたので、思わず「日本人?」と聞いた。彼も僕に向かって同じ様に「日本人?」と聞いてきた。その瞬間、僕ら二人とも笑みを浮かべて、そして握手をした。聞くところによると、最初はパリ郊外の「ノジョン要塞」で志願をしたけれどメガネをしているという理由で追い返されたという事であった。なのでマルセイユの「Malmousque」(マルムスク)という所にある外人部隊兵が休暇で使う事が出来る保養所兼募集事務所で再度志願したという事だった。そこですぐ「偽名」をもらったという。「ビトウ」さんと言って28歳、日本では少し「ヤバい」仕事をしていたという事だった。彼には在隊中、除隊後も色々と世話になった。

残念なことに「ビトウ」さんは長い闘病生活を送り、2019年7月5日、戻る事のない長い行軍に出かけて行ってしまった・・・。

とにかく僕は嬉しかった。こんなに早く日本人の志願者に会えるとは思ってもいなかったからだ。言葉が通じるという事は何と素晴らしい事であろうか?時間の許す限り色んな事を話した。

何人かの連中が運動着から古くて色あせてはいるが戦闘服になった。これも古いが半長靴も履いている。そして「黄色」の肩章を着けている。戦闘服になって肩章の色が「赤」になるとしばらくしてここ「オバーニュ」からフランス南西部、Toulouse(トゥールーズ)とCarcassonne(カルカッソンヌ)の中間ぐらいにある「Castelnaudary」(カステルノダリー)の第4外人連隊へ4ヶ月の新兵訓練のために送られる事になる。僕は彼らが羨ましかった。早く正式に入隊出来るという確証が欲しかった。

この第4外人連隊は新兵訓練の他、伍長、軍曹訓練コース、小隊長基礎コース、通信、医務、事務、車両整備、無線などの訓練コースを行なっていて、一般の連隊から訓練コースのためにたくさんの人間が行き来していた。

夜の点呼の時の人数を聞いていたらビックリした。僕ら志願者の数は120人以上になっていた。毎日新しく志願者が来ているというのは知っていた。一応一列10人ぐらいで何列にも渡って並んでいるのだが、点呼をする当直の上級伍長が何度も数え直さないといけないぐらいの人数になっていたのだ。

点呼の時に名前を呼ばれて「こっちへ来い!」と言われて行くと、下着、歯ブラシ、歯磨き粉、髭剃りなどを支給された。ここ外人部隊には「身一つ」で来てもいいようになっている様だった。

                                          読んでくれた人、ありがとう。